煙のないところに火はたたず、事実のないところに伝説はない。
記録と物証の残る歴史を史実といい、口伝による歴史を伝説という。
しかし口伝とは時の人の生きる社会情勢や時代背景により変化する水物で、その内容は極めてあいまいさを残したままやがて定型化する。
また史実は事実を正確に伝えているかもしれないが、その時代を生きた人の数に比べればほんの微々たる部分の切り抜きでしかない。
ゆえに史実は全てでなく、本当の歴史の真実は常に闇の中に隠されている。
しかし伝説と史実を重ねて歴史を読み解けば、今より真実に一歩近づけるかも知れないと筆者は思う。
そして真実とは、自分という一個の己の中でしか見いだせないものだとしたら、それを触発するのが物語の使命かも知れない。
城郭拾集物語は、そんな挑戦を試みた短編小説集だと思っている。
