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ハリケンジャーと仮面ライダー龍騎
 最近我が家はハリケンジャー一色である。

 仕事が終わって家に帰ると、幸ちゃんはいつも、

 「ハリケンレッドだど!(「ぞ」を「ど」と発音してしまう)」

 と叫んで、僕にむかって「エイ、ヤー」だの「カクゴシロ!」だの、効果音を入れながら、時にはなぜかBGMまで自分の口で言いながら攻めてくる。いきなり攻撃される僕は、仕方がないから「やられた〜!」と言って倒れるが、付き合うのも楽でない。

 知らない人のために付け加えておくと、ハリケンジャーとは毎週日曜日の朝七時三十分からやっている子ども番組の事で、僕が小さい頃は「秘密戦隊ゴレンジャー」がやっていて、その後「戦隊シリーズ」は回を重ねて、今の「忍風戦隊ハリケンジャー」に至る。

 たまの日曜くらいはゆっくり寝ていたいのだが、我が家ではそうはいかない。七時半には起きて、僕には幸ちゃんを起こさなければならないという使命がある。そこで起こさなければ、その後の数日間は、幸ちゃんの「ハリケンジャーみる〜」という幼気な言葉に悩まされ続けなければならない。ママはいつもネボスケで、犠牲になるのはいつも僕だ。

 こんな健気なパパに対して、三人でハリケンジャーごっこをやる時は、いつも幸ちゃんは、僕には“ハリケンイエロー”の役しかまわしてくれない。決まって自分はハリケンレッド(主人公)で、ママはハリケンブルー(紅一点のくの一)なのだ。なぜだろう?ゴレンジャーの時代から「黄色」は誰もやりたがらない。そんな事はどうでもいいが、パパは長澤奈央ちゃん演じるハリケンブルーの七海ちゃんが好きなのに、悲しい……。そんな事を繰り返しているうちに、僕までハリケンジャーファンになってしまった。

 買い物に出ると、幸ちゃんは真っ先におまけのついているお菓子売り場に飛んでいく。おまけといっても、お菓子の方がおまけ状態になっているおもちゃである。全くよく考えられていて、見るからに子どもが欲しくなるような商品で、僕も「銀河鉄道999」や「未来少年コナン」のそれがあると、思わず 手を伸ばしてしまいそうになる。

 それが、ハリケンジャーの“旋風神”という合体もののロボットになればたいへんだ。一箱だけではロボットにならず、結局3体全部買う羽目になる。一箱三百円くらいするものである。ひとつ買い与えてしまったら最後、完全なロボットの形にしてしまわないと、幸ちゃんより親の方が気がかりになって、ついつい買い与えてしまうのだ。最近のおもちゃ業者の手口も巧みなものだ。

 そんな事をしているものだから、幸ちゃんは我慢という事がひどく苦手だ。だから、ママには「たまには我慢させなきゃ駄目だ」と言うと、

 「なら、あなたはタバコをやめたらあ?タバコ代は月にどれくらいかかっていると思っているの?幸ちゃんのおもちゃは、児童手当から出しているのお!」(最後の「お」が僕の心に突き刺さる―――)

 と言われてしまう。こうなると僕の行き場所がなくなる。結局、幸ちゃんとハリケンジャーごっこをやってごまかすしか手段を知らない。

 日曜日、ハリケンジャーが終わると、続いて「仮面ライダー龍騎」が始まる。

 仮面ライダーにしろウルトラマンにしろ、僕が子どもの頃見ていた番組がいまだにあるのを見ると、何だか時代はあまり変わっていないような気がする。それらはきっと日本人のDNAになって、親から子へ受け継がれているのかも知れない。

 龍騎が始まって少し経つと、ようやくママが起きてきて、

 「龍騎、どうなった?」

 と聞く。今の仮面ライダーはグレードがかなりあがっていて、大人でも楽しめるようにできている。これは幸ちゃんよりむしろママの方がはまっている。ストーリー展開も難解で、仮面ライダーが出てこなければ、現代的手法で精神世界を描く、本格的なシリアス映画のように見える。これでは大人がはまるのも無理はない。次回はどうなるのかと胸をワクワクさせるのはうちのママだけではないはずだ。しかもキャスティングが、何千人ものオーディションの中から勝ち抜いてきた色男ばかりである。子育てに疲れ、毎日同じ旦那の顔も見飽きた世の中のママさんたちが、夢中になってしまうのは当然であろう。

 だから幸ちゃんの物を買うときも、ママはどちらかというと龍騎寄りだ。個人的に僕は、ハリケンジャーのようにあか抜けたものの方が好きなのに。

 ある情報によると、仮面ライダー龍騎は最終的に十三人ものライダーが出てくるそうだが、そうなったら大変だ。幸ちゃんとお買い物に行くとき、「龍騎」や「ナイト(ライダーの一人)」だけでなく、そういった人形を十三体も買わなければいけなくなる。これは早いところ興味をそらさなければいけまい……。

 龍騎かハリケンジャーか―――。たまにママは、さんざん龍騎のかっこよさを幸ちゃんに語って聞かせた後、「龍騎とハリケンジャーとパパと、どれが好き?」と聞く。(なぜ比較対照に僕を入れるのか!)

 すると幸ちゃんは、少し考えた後、

 「ウルトラマン」

 と答える。幸ちゃんは親より一枚も二枚も上手だ。

2002年5月26日