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はしいろ☆まんぢう ショートショート
> ある失恋物語
ある失恋物語
『もう終わりにしましょう―――。
こんな事を続けていたって、お互い傷つくだけだもの……。
貴方が嫌いになったわけではないの。ただ傷つけ合うのが怖いだけ。
こんな大事な話しなのに、月並みな言葉しか浮かばなくてごめんなさい。でも言いたいことは変らない。貴方にとって私はふさわしい女ではなく、私にとって貴方はふさわしい男ではなかった───。
ただそれだけ……』
『ふさわしいかそうでないかは、相手を思う気持ちで変るはずだろう。相手を心から好きならば、相手のために心を黒から白にすることだってできるはずだ。
君はそうすることもしないで、最初からふさわしくないと決めつけている。
いいかい、お互いの愛の形なんて、最初から同じ筈がないんだよ。なぜなら、誰もが全く違った環境で育って、違った環境で生活しているから───。
僕の気持を言おう。
君が僕を嫌いになったのでないなら、別れる理由なんか何もないはずだ』
『確かに私は貴方が好き……。でも何かが違うの。
一人で部屋にいるときも、貴方に会いたいって思ったことはないし、一緒にいるときだって心から楽しいと思ったことはないもの。
そりゃ出会ったときは、会うたびにときめいていたわよ。でもね、貴方を知ってくるに従って何かが変ってしまったの。
こんな気持ちで付き合っていたら、もっと貴方を傷付けてしまう。やっぱり別れたほうがいいの……』
『今別れたら、心に一生深い傷となって残るだろう。
好きなのにどうして別れなきゃならないんだ。
実を言うと、ずっと前から君の心が僕から離れていくのを感じていた。でも怖くて、聞けなかった―――。
君自身気付いていない感情を刺激して、こんな話しになるのを恐れていた……』
『いつから?』
『君が、僕の気にしていることを平気で口にするようになってから……。
僕が作曲した音楽を聞かせたときに、君は、音楽むいてないからやめたほうがいいって言ったね。
中でもあの言葉が一番こたえた。
自分に才能がないことくらい知っている。だから誰に何と言われようと気にしないが、君にだけは馬鹿にされたくなかった。
唯一、僕の理解者と思いたかったから』
『ごめんなさい……。
そういえば私、貴方を傷付けることばかり言っていたわね。駄目なの、貴方の顔を見るとついつい口が滑って……』
『口が滑るほど、僕は軽い存在だったのか、やっぱり本気じゃなかったんだな……』
『本気だったわよ!』
『それならどうして別れようなんて……』
『今別れておかないと、もっと傷つくことになるからよ!』
『嫌いになったんだな、僕の事……。
好きなら、どんな事があったって、一緒にいたいと思う筈だもんな。それならそうとはっきり言えばいいじゃないか!』
『そのほうが気が楽?』
『まただ。さっきから聞いていれば、傷つけるだの気が楽だのと。全て君の心変りが原因なんだろ。それなのに自分を正当化しようとして。
ずるいよ、君は……』
『正当化してる?』
『君の気持はもう分かった。せめて今日一晩だけでも付き合ってくれないか』
『いけないわ』
『それなら今すぐ帰ってくれ』
『ううん、先に行ってちょうだい。貴方を見送りたいから』
『いい加減にしてくれ!君から別れを言い出しといて、どうして最後に良い子ぶらなきゃならないんだ』
『……』
『僕についてくるか、帰るか、二つに一つ……』
『じゃ、私、帰るね……』
『そうか……』
やがてメスのスピッツは、茶色の雑種犬に振り向きもせず、夕陽の当たる路地裏を早足で去っていった。
一九八八年
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