> ここは下宿屋裾野館『失業!?選挙で立候補!?』〜の巻
ここは下宿屋裾野館『失業!?選挙で立候補!?』〜の巻
<登場人物>

裾野シメジ
裾野マツタケ

山野ゼンマイ
中野エノキ
山川マイタケ

自由ファシスト党党首 名知須人良
自由ファシスト党立候補者 土屋モグラ
なんでも反対党立候補者 白旗ふり奈
人間党立候補者 松山コゴミ

森山霊芝
森山のびろ

刑事
塵紙交換屋
青竹売り
石焼きいも屋
豆腐屋
金魚屋

《演劇活動をされている方へ》
この脚本はご自由にお使い下さい。※ご使用の際、お知らせいただければなお嬉しいです。



【第1場面】

シーン1

舞台  暗転。下手側、刑事にスポット。刑事が逮捕状を客席に掲げ、立っている。
刑事  人間党党首、森山霊芝だな!
霊芝  (上手側でスポットあたる)そうだが。
刑事  収賄容疑で逮捕状が出ている!署まで同行願おう!(霊芝の腕をつかむ)
霊芝  どういうことだね?
刑事  問答無用!
のびろ  (下手より登場)父さん!!
霊芝  心配するな。無実は必ず証明される。
刑事  来い!
霊芝  後の事は頼んだよ。
のびろ  父さん!!……、父さん……。
舞台  霊芝を連れて刑事が上手へはける。それを追いかけるのびろ。上手側で膝を落とす。
名知須  (下手より登場)ふぁはははははは……・!これで人間党もおしまいじゃ。これからは、我が自由ファシスト党の天下じゃ。ふぁはははは!うーれしーなー。
舞台  暗転。


シーン2

舞台  裾野館。
シメジ  (買い物かごをぶらさげ、鼻歌を歌いながら上手より登場)今日はみんなで、おなべでもしましょ。消費税5%還元セールで、得しちゃった。
舞台  遠くから選挙の遊説の声が聞こえる。「こちらは自由ファシスト党の遊説カーでございます。土屋モグラ、土屋モグラをどうぞよろしくお願いいたします。皆様とともに、住みやすい都市作りを実現いたして参ります。土屋モグラでございます。土屋モグラ……」
シメジ  もう、うるさいんだから!選挙はいいけど、もっと静かに選挙運動をしてもらいたいわ!(裾野館に入って、そのまま奥に入る)今日はおなべ……。
舞台  “自由ファシスト党”候補土屋モグラ、候補者のたすきをかけ、拡声器を口に当て、下手から上手に歩いていく。
モグラ  ええ……、こちらは土屋モグラ、土屋モグラでございます。皆様の熱い支援をいただき、食べる物も食べず、飲む物も飲まず全力で戦っております。(おむすびを食べ、ジュースを飲む)我が国の与党として、時代をリードしてきた自由ファシスト党より立候補いたしました土屋モグラ、土屋モグラをどうぞよろしくお願いします。(はける)
マツタケ  (部屋より登場)あああ!全くうるさいわね!ゆっくり知恵の輪もできないじゃない!(机に座り知恵の輪をはじめる)シメジ、ねえシメジ!
シメジ  (奥より出てくる)なあに、お姉ちゃん。
マツタケ  シメジ、悪いんだけどさ、耳栓買ってきてちょうだい。うるさくて集中できない!
シメジ  ええ、いま買い物から帰ってきたところなのに!早く言ってよ!
ゼンマイ  (上手よりスーツ姿で登場〜中央で)ちぇ、就職活動も楽じゃないな。これで三十社目だぜ。あーあ、来年度も就職浪人か……。(裾野館に入る)ただいま。
シメジ  あら、ゼンマイさん、おかえりなさい。どうだった?勝建設株式会社の面接の方。
ゼンマイ  (Vサインで)あっはっはっはっは……。
シメジ  採用してもらったの!?おめでとう!
ゼンマイ  (急に泣き出す)
シメジ  だめだったの?気をおとさないで!
ゼンマイ  (急に明るく)なあに、人生明るく生きなきゃね!ルンルン……!たーのしーいなあ!
シメジ  なんだ、心配しちゃうじゃない!合格したのね!おめでとう!
ゼンマイ  (泣き出す)
シメジ  ええ、やっぱりだめだったの?元気だして!
ゼンマイ  おれは元気だぜ。あっはっはっはっは……!
シメジ  よかった!おめでとう、ゼンマイさん!
ゼンマイ  (泣き出す)
マツタケ  (ハリセン)泣くか笑うかどっちかにしろ!
ゼンマイ  あのハゲ社長のやつ……。面接中におれがちょっと居眠りをしただけで、「君は働く気があるのかい?」だって。働く気があるから面接に来ているんじゃないか。なあ。
シメジ  ええ、面接中に居眠りしたの?信じらんない。
ゼンマイ  どこかに俺のような優秀な人材を採用してくれるとこ、ないかな?シメジちゃん、紹介してくれない……?
シメジ  そうね、ゼンマイさんみたいに、無気力、無責任、無能力の三拍子そろっている人って、なかなかいないものね。
ゼンマイ  そうそう、おれのように無気力、無責任、無能力の三拍子……、それって、悪いことじゃん……。シメジちゃん、ひどい……。そうか、俺って……、そうなんだよな……。
シメジ  冗談、冗談!元気だして!世の中広いんだし、ゼンマイさんにぴったりの就職口、ぜったいみつかるわ!
ゼンマイ  大不況で失業率も過去最低の世の中で、そんなもんあるわけないよ。
舞台  下手より“なんでも反対党”立候補者白旗ふり奈、たすきをかけ、拡声器を持って登場。
白旗  ええ、私、なんでも反対党候補の白旗ふり奈です。目下花婿募集中。どっかにいい男いないかしら……。いけない、今私は遊説をしているんだった。(上手に歩き出す)消費税、反対!商品券、反対!金融処理法案、反対!介護保険、反対!児童福祉、反対!今の政治、反対!なんでもかんでも反対!政治は分かりやすさが大事です!反対!反対!反対!どう?わかりやすいでしょ。なんでも反対党白旗ふり奈、よろしくお願いします。(下手にはける)
ゼンマイ  な、なんだい、今の?
シメジ  さっきからうるさいのよ。もうじき選挙でしょ。選挙はいいんだけど、遊説がうるさくて。
モグラ  (下手より登場)土屋モグラ、土屋モグラでございます。どうぞよろしくお願いします。土屋モグラ、土屋モグラでございます。(上手にはける)
マツタケ  ったくうるさいわね!今度きたらおっぱらってやる!
シメジ  お姉ちゃん、気持ちはわかるけど、怒りすぎて、また塀を倒さないでちょうだい。
マツタケ  わかってるわよ!
声  毎度お騒がせしております。
マツタケ  来た!(立ち上がって外に出る)あんたたちも来なさい!
塵紙交換  毎度お騒がせしております。こちらは塵紙交換でございます。(こけ)古新聞古雑誌、ございましたらお早めにお知らせください。こちらは塵紙交換でございます。(はける)
マツタケ  まったく紛らわしいんだから!(家に入る)
声  毎度お騒がせしております。
マツタケ  ようし、今度こそ!(出る)
青竹売り  サーオヤー、あ、青竹!(こけ)物干し竿のご用はございませんか?三メートル三百円、四メートルで四百円、五メートルなら五百円。では十メートルではいくらでしょう?(こけ)答えは、“そんな長い物干し竿は必要ない”でした。(こけ)サーオヤー、あ、青竹!物干し竿のご用は……(はける)
マツタケ  なによ、今の!紛らわしい!
石焼き芋  いーしやーきーいもー、おいも!あっつあつー!(はける)
豆腐屋  ピープー!
金魚屋  (豆腐屋に続いて)きんぎょーえ、金魚屋!
マツタケ  もう、勝手にやってなさい!(家に入る)
白旗  白旗ふり奈、白旗ふり奈です。ただいま恋人募集中でございます。なんでも反対党候補白旗ふり奈です。よろしく、よろしく、よろしく。そこの私好みのお兄さん、白旗ふり奈でございます。うっふーん。(はける)
モグラ  土屋モグラ、土屋モグラでございます。自由ファシスト党より立候補した土屋モグラでございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ご声援ありがとうございます。全力でがんばってまいります。土屋モグラをよろしくお願いします。(はける)
マツタケ  全く!!(外に出る)うるさーい!静かにしろー!!(看板がかしがる)ああ、すっきりした。(家に入る)
シメジ  この一週間はあきらめたほうがよさそうね。
ゼンマイ  あ、そうだ!俺にぴったりの仕事があった!
マツタケ  あるわけないじゃない。ぐうたらで、ばかで、無気力、無責任、おまけに家賃滞納の常習犯ときてる。
ゼンマイ  貧乏は関係ないだろ!それがあるんだよ、俺にぴったりの仕事。ばかでもぐうたらでも無責任でもできる、俺のためにあるような仕事。息だけしてればいいの。
マツタケ  息してればって……、ああ、相手にしてるだけで疲れる。
シメジ  なになに?ゼンマイさん教えて?
ゼンマイ  知りたい?
シメジ  知りたい、知りたい!
ゼンマイ  そう……?(もったいぶって)あのさ、政治家だよ、政治家。
マツタケ・シメジ  さて……。(立ち去ろうとする)
ゼンマイ  待ってよ。話しを聞いてよ。
マツタケ  あのね、政治家ってここがよくないとなれないの!(頭を指差す)
ゼンマイ  政治家なんて案外頭悪いんだよ。だって、何か問題があると「記憶にございません」ってさ。俺も記憶力悪いんだ。ね、同じだろ。それに、仕事中に居眠りしたっていいし、いざとなったら嘘つけばいいんだもん。驚くほど俺にぴったりんこ!
シメジ  言われてみればそうね……。どう?立候補してみる?応援するわ!
ゼンマイ  そうでしょ!ようし!やるぞ!
マツタケ  ばかね!立候補するにもお金がかかるのよ。
ゼンマイ  え!?金がいるのか?
マツタケ  あたりまえじゃない。そんなお金があるんだったら、たまってる家賃払ってちょうだい!
ゼンマイ  (無言で立ち上がる)そうか、金がいるのか……。(ため息をはいて奥へはける)
シメジ  ゼンマイさん……。大丈夫かな?


シーン3

舞台  今にも倒れそうな森山のびろ、杖をつきながら下手より登場。
のびろ  ああ……、この不況でどこも僕を雇ってくれない……。職安に行っても求人票は一枚もないし……、もう一週間も、何も食べてないもんなあ……。早く職をみつけなければ、僕は死んでしまう……。どこかに職はないか!おおい、職よ!職!うっ!(倒れる)
マツタケ  (知恵の輪やりながら)あ、そうそう、シメジ、耳栓買ってきて。
シメジ  なんだ、覚えていたの?はーい……。(家を出る。〜のびろを発見)ど、どうしたの!?(のびろに駆け寄る)しっかりして!
のびろ  (やっと上半身を起こす)う、うう……。
シメジ  どうしたの?おなかが空いてるの?
のびろ  しゅ、しゅ、しゅ……、
シメジ  なあに……?食料……?それとも、お水……?
のびろ  就職……。(倒れる)
シメジ  しっかりして!(のびろの上半身を起こす)お姉ちゃん!たいへん!人が倒れてる!
マツタケ  (知恵の輪をやりながら外にでる)なによ、騒がしいわね!(知恵の輪が解ける)解けた!!
シメジ  え、ほんと!?(のびろを突き放し、マツタケの方による)うそっ!見せて、見せて!
マツタケ  ほら!ね、精神一到なにごとかならざらんね!
シメジ  すごい、お姉ちゃん!
のびろ  う、ううっ……。
マツタケ  それよりどうしたのよ、大声出して。
シメジ  あ、そうそう。たいへんなのよ!人が倒れているの!あそこ!(指差す)
マツタケ  まあ、めずらしい!行き倒れ?(のびろに駆け寄り手を持つ)とりあえずシメジ、そっち持って。家に入れましょう。
シメジ  (足を持つ)よいしょ。おもい……。
石焼芋屋  (突然上手に現れる)いーしやーきいもー、おいも!ほっかほかー!おいしいよ!
舞台  二人、のびろを落とす。
シメジ  ああ、おいも屋さーん!焼きいも二つちょーだい!(駆け寄る)
石焼芋屋  あいよ!毎日寒いね!二つね!
マツタケ  ああ、シメジ、四っつにしてもらって。私、三っつ食べるから。
のびろ  (起き上がって)おいっ!(気が付くまで言う)おいっ、おいっ……。
シメジ  (のびろに気付き)あ、あー、ごめん……。
のびろ  もう、自分で入った方が早いよ!(裾野館に入る)
シメジ  ああ、ちょっと待って!
マツタケ  ああ、シメジ……、(お金を払い、焼きいもを抱えて家に入っていく)
舞台  暗転


シーン4

舞台  裾野館中央の机上には食べ終えた食器が並び、周りにはシメジ、マツタケ、のびろが座っている。
のびろ  ああ、食った食った。(腹をたたく)
シメジ  相当おなかがすいていたのね。
のびろ  いやあ、助かりました。(ゲップ)あと一日なにも食わなかったら死ぬところだった。ところで、ここは?
シメジ  裾野館という下宿屋よ。
のびろ  下宿屋?
シメジ  この人がここの大家のマツタケ。で、私が妹のシメジ。
マツタケ  ところであなた、どうしたの?いまどき行き倒れなんて流行らないわよ。
のびろ  ああ、ぼく、森山のびろといいます。仕事を探しているんですけど、どこへ行っても不況、不況、不況。どこもぼくを雇ってくれないんです。住む所も失い、この三カ月間、あちこち歩きまわっているうちに、ついに力尽きて倒れてしまいました。お恥ずかしい……。
シメジ  かわいそう……。失業してるんだ。それまでは何をやっていたの?
のびろ  保育園関係の仕事を……。その前は臥竜公園の整備。その前は本屋さん。その前は教育機材のセールス。かれこれ三十回くらい職を変えてます。これ履歴書です。(ポケットから出す)結局、いろんなところを転々としているから、信用がなくなっちゃうんですね。
シメジ  何か訳がありそうね……。
のびろ  訳なんてありませんよ。ただ、天職に出会えないだけで。
マツタケ  へー、なるほど……。(履歴書を眺めながら)保育園で何をやっていたの?
のびろ  雑用です、雑用。戸を直したり、窓ガラスをはりかえたり、水道をいじったり、時には園児のもらしたうんちをかたずけたり……。
マツタケ  それじゃ、棚を作ったりとかもできる?
のびろ  おやすいご用。
マツタケ  塀の修理は?
のびろ  できますとも。
シメジ  ええ?じゃあ、私の部屋の壁のはりかえは?
のびろ  材料さえあれば、なんでもやっちゃいますよ!
シメジ  お姉ちゃん!この裾野館を修理してもらいましょうよ!少しは住みやすくなるわよ。
マツタケ  そうね。うちの住人より、よっぽど役に立ちそうね!どう?ここで働かない?
のびろ  ええ……?い、いいんですか?
マツタケ  もっともうちも不景気だから、そんなにいい条件は出せないけどね。
のびろ  もう条件なんかどうでもいい。なんでもやらせていただきます。
シメジ  お姉ちゃん、人使いあらいわよ。
マツタケ  余計なことは言わないの!
シメジ  これで奇麗なお部屋に住めるわ!うれしい!
マツタケ  こういうのはどうかしら?時給百円。
のびろ  (立ち上がり)帰らせていただきます。
マツタケ  話しは最後まで聞く!そのかわり、朝、昼、晩の三食付き。住み込みということで、空き部屋を一つ貸すから自由に使うといいわ。更に年頃の美人姉妹二人つけちゃおう!
のびろ  え、どこどこ?
マツタケ・シメジ  (自分を指差す)
のびろ  さてと……。(帰ろうとする)
マツタケ  そう、残念ね……。
シメジ  食べる物だけ食べて、用がなくなれば立ち去る……。世の中の男なんて、みんなそんなものなのよね……。
マツタケ  そうそう。それに、この不況でどこ行ったって仕事なんかあるわけないのに……。ばかね。
シメジ  そういえば昨日テレビでやってた。職を失い首つり自殺だって……。かわいそうに。
マツタケ  この間、うちの仕事ことわった大工さん、屋根から落ちて半身不随だって。かわいそう。
シメジ  うそー。そういえばさ、ここが旅館やっていた時、食い逃げした人がいたじゃない。あの後すぐ……、わあ、思い出しただけで……、うう……。
マツタケ  シ、シメジ、やめて、その話し……。
のびろ  な、なに……?どうしたの?気になるじゃない……。
マツタケ・シメジ  (のびろをじっとみつめ)かわいそうに……。
のびろ  な、なに……?
マツタケ  いいのよ、時給百円なんて安い給料で働かなくたって。あなたなら、だ、大丈夫よ……。(のびろから目をそらす)大丈夫……。グスッ!(泣く)
シメジ  お姉ちゃん、そんなのかわいそう!かわいそうすぎる!(泣く)
のびろ  あ、あの……、は、働かせてください……。
マツタケ・シメジ  (泣きやむ)
マツタケ  い、今、何て言ったの?
のびろ  働かせてください。
マツタケ  ほんと?
シメジ  お姉ちゃん、よかった!
マツタケ  (態度翻って)じゃ、早速だけど耳栓買ってきてちょうだい。あ、それから帰ったら洗濯物取り込んで、お風呂掃除やってちょうだい。
のびろ  ええ!?は、はい……。(首をかしげながら外に出ていく)へんなところに来ちゃったなあ……。
舞台  暗転。


【第2場面】

シーン5

舞台  のびろ、部屋の掃除をしている。そこへパソコンを抱えた学生服姿のエノキ登場。エノキ、電話のコードを抜いてパソコンをつなぎ、机に座ってEメールをのぞきはじめる。それが気になるのびろ、掃除をしながらのぞきこむ。
エノキ  (のびろの動きを気にしながら)誰?おじさん。
のびろ  ぼ、僕?僕ねえ、今日からここで住み込みで働くことになった、森山のびろっていいます。よろしく。君は?
エノキ  中野エノキ。
のびろ  エノキ君か……。中学生だね。(パソコンをのぞきこむ)何をやってんだい?
エノキ  Eメール。
のびろ  ああ、Eメールか。(内容を読む)なになに……、「アントニオ:今日の数学の時間、内海先公のチャック全開なの見た?笑っちゃうよな」へえ、エノキ君はアントニオという名前でやってるんだ。「土方歳三:見た、見た。おかしかったわよねー、うふっ」へー、それで、土方っていう女の人と会話してるんだね。
エノキ  (のびろをひっぱたく)誰とEメールしようといいじゃないか!人のプライバシーをのぞかないで!あっち行って!
のびろ  ああ、怖い……。中学生は難しいなあ。思春期だから仕方ないか。
舞台  下手よりマイタケ、セーラー服姿で登場。頭にでかいひまわりの飾りをつけている。携帯電話と電子メール器機を持って玄関に入ってくる。無言のままカバンをおろし机に座る。エノキとマイタケ、隣り合わせの状態。
のびろ  (マイタケに)ここの住人の人?おかえりなさい。
マイタケ  (無視して電子メールをやっている)
のびろ  (マイタケのカバンをのぞきこみ)野ノ原中学一年五組、山川マイタケ……?マイタケちゃんていうんだ。何をしているの?
マイタケ  (のびろをにらみ、カバンを机の下に隠す)
のびろ  何だよ!近ごろの中学生は愛想がわるいなあ。(掃除を続ける)
舞台  のびろは掃除。エノキはパソコン。マイタケは電子メール。暫くしてエノキが「クスッ」と笑う。気になるのびろ。続いてマイタケが「ウフッ」と笑う。更に気になるのびろ。やがてエノキが笑い出す。のびろ、我慢できずにパソコンをのぞきこむ。
のびろ  「土方歳三:もうすぐ着くわ。ほら」「アントニオ:ああ、ほんとだ。おかえり」変な会話だなあ。「土方:だあれ?このださいおじさん」「アントニオ:今日からここで住み込みで働くらしいよ」あれえ?どっかで見た場面……。「土方:やだあ私、こんな匂いそうなおじさんと一緒に生活するの」「アントニオ:仕方ないよ、さっきから棚を作ったり、壁を修復したりしてたから、きっと大家さんは、少しずつこのオンボロ下宿屋を直していくつもりだよ」「土方:やだあ!このおじさん、今、私のカバンのぞきこんでる!ああ、私の名前をつぶやいた!いやらしい声!」あれえ?へんだぞ?「アントニオ:相手にしない方がいいよ」「土方:やだやだ、いま、あなたの後ろで、あなたのパソコンのぞきこんでるわよ!どすけべオジンね!名前はなんていうの?」「アントニオ:確か、森山のびろっていったかな」―――、僕のことじゃないか!ちょっとまてよ……?この二人、こんなに近くにいるのに、Eメールで会話してるよ……。ハイテク症候群?ちょっと、もしもし、君たちね、不自然じゃないかな?口で話せばいいと思うんだけどな?
マイタケ  (のびろをにらんで、キーを打つ)
のびろ  何だよ、何て言ったんだよ?
エノキ  (のびろをたたいてパソコンを指差す)
のびろ  「だからオジンは嫌なのよね!いちいち説教してさ!アホ!」なに、アホ!?(エノキに)君も君だよ!男なんだから堂々と口で話せばいいじゃないか!なになに「オジンなんか相手にするのはお互いにやめようね」くそう!人を馬鹿にして!ちょっとまてよ?ひょっとして、君、マイタケちゃんっていったっけ、もしかして口が聞けないのか?ごめん、おじさん、悪いこと言っちゃったかな?(泣き出す)そうか、悪かったなあ……。
マイタケ  (カバンを持って立ち上がる)ばーか!(奥へ行く)
のびろ  話せるじゃないかよ!
エノキ  あーあ、せっかくの会話がだいなしだ。つまんねーな。
のびろ  ああ!ああ!もしかしてエノキ君、君、マイタケちゃんに惚れてるな?だから面と向かって話せないんだな。そうか、そうか……。
エノキ  違うよ!そんなんじゃないよ!(パソコンをしまって奥にはける)
のびろ  照れちゃって。いいな、青春時代の恋……か。僕にもあったなあ……。あ、そうだ、そんなことより、次は雨漏りの修理をしなくちゃ。ああ、忙し忙し(はける)


シーン6

舞台  下手より自由ファシスト党党首名知須人良と候補者土屋モグラ登場。
モグラ  名知須様、この辺でどうでございましょう。割と人通りが多く、手前には小人数ですが集まれるスペースがございます。
名知須  うん、街頭演説にはまあまあの場所だな。ところで、どうだ土屋、選挙状勢の方は?
モグラ  心配ございません。いまや国民は言葉を失いました。言葉どころか政治に対して批判をする能力すら失っております。それもこれも我が自由ファシスト党の先輩の方々の御尽力のおかげです。ことにその党首であられる名知須人良様のお力は絶大でございます。
名知須  そうだろ、そうだろ!大きな声では言えんがな、我が自由ファシスト党の神様とまで崇められているドイツのアドルフ・ヒットラー様はな、特に若い世代の民衆パワーを恐れていた。そこで、若者に三つの“S”を与えたんだ。なんだかわかるか?
モグラ  三つの“S”……?そりゃ分かりますよ。塩、砂糖、醤油でしょ。
名知須  そう、調味料には欠かせない三つの要素だ。って違うでしょ!三つの“S”、すなわち“スポーツ”“スクリーン”“セックス”の三つだ。快楽に走る性質をもった若い世代のバカどもは、やがてその三つの“S”に取り付かれて、政治への関心が全くなくなり、独裁政治が成立するわけだ。どうだ、今の日本と全く同じだろ。
モグラ  さすが、名知須様。今回の選挙で我々が勝てば、間違いなく自由ファシスト党の独裁体制が実現します。
名知須  そうだろ、そうだろ。我々が過半数を取れば、政治はもう思いのまんま。まず、消費税の問題だが、今、五%だろ、それを五〇%に引き上げる。
モグラ  ご、五〇%に!?で、でも、そんなことを公約で言ったら絶対落選します。
名知須  ばーか!そんなことを言ったら落ちるに決まってるじゃねえか!だから、選挙中は、消費税を当面凍結にして、税金も減らしますっていうんだ。
モグラ  それじゃあ嘘つきじゃないですか?
名知須  ばーか。政治家が嘘をつかなくてどうする!政治家の基本姿勢はな、もっともらしいことを言って国民を欺くことだ。
モグラ  なるほど、勉強になります。
名知須  消費税を五〇%に引き上げたらな、次は国のお荷物を斬り捨てるんだ。だいたいな、稼ぎもせず、税金も払わないで、国に住もうなんてあまっちょろい考えが気に入らん。老人、病人は全て無人島に島流しにしてやる。
モグラ  “姨捨山”ならぬ“姨捨島”ですね。おお、怖〜。
名知須  だが、そのまま言ったんじゃ反発を買うのは目に見えている。選挙に勝つためには、ちとここ(頭を指差す)を使わにゃならん。名付けて“レインボー介護計画”だ。ちともったいないが、無人島に奴らのための居住施設を作ってやって、“第三の人生を虹色に輝かせよう”とか、適当にキャッチフレーズを作ってだな、内実はそこで自給自足の生活をさせるんだ。どうだ、健康的だろう。
モグラ  アウシュビッツ収容所……。
名知須  我がファシスト党に『福祉』なんて言葉はなーい!!まだあるぞ。学校教育は全て、我が自由ファシスト党を賛美する教科書にすりかえる。これは現行の制度で充分可能だ。文部大臣は、そうだの、この選挙に当選したら、土屋モグラ、おまえに任せよう。
モグラ  ええ!わ、私が!?
名知須  いやか?
モグラ  いえいえ、よろこんで!
名知須  教育関連で浮く予算と、福祉予算の全ては、全部防衛費にまわす。どうだ。
モグラ  さすが、自由ファシスト党党首、名知須人良様でございます。早速、演説をはじめましょう!(演説の準備をする)
名知須  人はどのくらい集まっておる。
モグラ  (客席を見回し、その時の客の入りでセリフをアドリブで言う)えー、チョボチョボ……。
名知須  ようし、それじゃ始めよう。
モグラ  はい!(ガタガタ震え出す)
名知須  どうした。
モグラ  は、はい。私、緊張症でして、人前で話すのが大の苦手なんです。
名知須  ばか!政治家が人前で話すのが苦手でどうする!堂々と、声を張り上げて、我らの政策を主張すればいいんだ。やれ!
モグラ  は、はい!わ、わ、わ、わ、私ども、じ、じ、じ、自由ファシスト党は、み、み、み、皆様がたの、み、み、み、味方です!
名知須  そうだ、それでいい。
モグラ  も、も、もし、わ、私が勝つことができましたら、まず、消費税を五〇%に引き上げます!!
名知須  (ハリセン)本当のことを言ってどうするんじゃ!
舞台  暗転。


シーン7

舞台  のびろ、棚の修理をしている。そこへ、コゴミとシメジ登場。
シメジ  コゴミちゃん、頑張ってね!絶対応援するから……。
コゴミ  ありがとうございます。全力で戦います。(のびろに気付く)あれ?おじさん……。どこかで見たような……?
のびろ  ええ?さて、どちらさんだったかな?
コゴミ  ううん。誰だったかな?
シメジ  ああ、このおじさん、この前ここで雇った雑用の人。仲良くしてあげて。
コゴミ  松山コゴミといいます。
シメジ  コゴミちゃん、そんなことより早く行かないと。
コゴミ・シメジ  (玄関を出る)
シメジ  コゴミちゃん、本当にがんばってね!私、絶対入れるから!
コゴミ  ありがとうございます。(“松山コゴミ”と書いたたすきを掛け、拡声器を口に当て歩き出す)こちらは松山コゴミでございます。この度、日本の世の中を見るに見かねて立候補いたしました。松山コゴミ、松山コゴミをどうぞよろしくお願い申しあげます。松山コゴミ、松山コゴミでございます。(上手にはける)
のびろ  な、なんだ?今の子、まさか、選挙に立候補してるのかい?
シメジ  そうよ。人間党公認で。史上最年少候補。のびろさんもよろしくね。
のびろ  に、人間党……!?(固まる)
シメジ  のびろさん、どうかしたの?のびろさん!
のびろ  い、いや……。
シメジ  へんなのびろさん……。(部屋に戻っていく)


シーン8

舞台  突っ立ったままののびろ。上手より名知須とモグラ、のし紙のついた箱を持って登場。
モグラ  名知須さま、それにしても昨晩行った店はよかったですね。
名知須  あたりまえだろ。税金で飲む酒は最高だ!お前にも味が分かるようになったか。
モグラ  はい。(裾野館をみつけて)おお、ここでございます。裾野館というちんけな下宿屋なんですがね、それでも有権者は二、三〇人いるって話しです。
名知須  こんなお化け屋敷みたいなところに人がいるのか?まあ、大家にそいつ(のしのついた箱)を渡しておけば、半分は票になるだろう。では、わしは別の用事があるから行くが、くれぐれも選挙管理委員会と警察には見つからないようにな。
モグラ  はい。
名知須  おっといけねえ、新幹線の時間は何時だったかな?(手帳を出して見ている)
マツタケ  (奥より声のみ)のびろさーん、悪いんだけどさ、ひとっ走り行ってティッシュ買って来てちょうだい!
のびろ  (立ったまま)
マツタケ  のびろさーん!聞こえてるの?
のびろ  え?は、はい!ティッシュですね!(急いで玄関を出て、名知須とモグラの前を通り過ぎる)
名知須  (通り過ぎるのびろを見て)おや?こいつは面白いことになりそうだ。
モグラ  どうかしましたか?
名知須  (のびろに)これは奇遇ですな、森山のびろ君!
のびろ  (立ち止まって振り向く)人違いじゃないですか?
名知須  人違いなものか!ここに書いてあるわ!(のびろのズボンを下ろす。ふんどしに“森山のびろ”と書いてある)ほれ!
のびろ  なんで僕がふんどしに名前を書いているのを知ってるんだ。
名知須  この顔を見忘れたか?自由ファシスト党党首名知須人良じゃ。
のびろ  ……。
モグラ  誰ですかい?
名知須  知らんか?元人間党党首森山霊芝の息子じゃ。今、何をやっとる?
のびろ  今?今アルバイトをやってます。ここで……。
名知須  おちぶれたものよの。国民の人気取りに走って、福祉だ弱い者の味方だとほざいていた親の息子のなれの果てじゃ。惨めなもんじゃ。どうだ、いっそ我が党に鞍替えして、党本部の便所掃除専属の職員にならんか?ふぁっはっはっはっはっ……!
のびろ  それ、いいかも知れないですね……。
名知須  おい、聞いたか?ばーか!てめえなんかな、地べたに土下座して千遍頼まれたって雇ってやらねえよ!(つばを吐く)
のびろ  ……。
名知須  ふぁっはっはっはっは、ウホウホウホ。この、負け犬め!国民の前で謝れ!お前達がやってきたことが全て嘘だったと!森山霊芝は極悪人だったと!
のびろ  ……。
名知須  やーい、やーい、人騙し!(モグラに)お前も一緒にやれ。
名知須・モグラ  やーい、やーい、お前の父ちゃん人騙し!人騙し!おまわりさんに捕まって、煮ても焼いても食われない!(くりかえす)
のびろ  (振り向いて上手側に歩き出す)
名知須  おい、逃げるか!やっちまえ!(石を拾ってのびろに投げ付ける)
のびろ  (涙をこらえて走り出す)
名知須  おい、待てえ!
舞台  名知須とモグラ、のびろを追いかけてはける。


シーン9

舞台  なんでも反対党候補白旗ふり奈、裾野館に訪れ呼び鈴鳴らす。
シメジ  (登場)あら、お客さん。はーい。(玄関に行く)
白旗  私、花婿募集中、なんでも反対党の白旗ふり奈と申します。(署名用紙を持っている)
シメジ  なんでも反対党?署名だったらお断わりよ……。
白旗  なぜ気付かれたの……?違うの、もっといい話し持って来たのよ。どう、アルバイトをしない?
シメジ  アルバイト?なあに?遠慮しとくわ。
白旗  まあ、そう言わないで……。ここには住人は何人いるの?
シメジ  住人?二十六人だけど……。そんなもの聞いてどうするの?
白旗  二十六人か……。どう、一票につき五千円で働かない?二〇票集めれば十万円、悪い話しじゃないでしょ。
シメジ  十万円って、くれるの?うそっ、今不況でしょ、最近お小遣いも貰えなくて。
白旗  ええ、あげるわよ。どう、いい話しでしょ。やる?
シメジ  うんうん、やるやる!ラッキー!って、それっておもいっきし選挙違反じゃない?
白旗  私達の党も年々厳しくなってきてね、選挙違反でもしなくちゃ勝てないの。そうだ、口止め料に一万上乗せしましょう。やってくれない!(泣き出す)やってよう。お願い!
舞台  自由ファシスト党候補土屋モグラ裾野館に登場。呼び鈴鳴らす。
シメジ  はーい!どうぞ!
モグラ  私、自由ファシスト党より立候補している土屋モグラです。(白旗に気付く)おお、お主、白旗ふり奈……。
白旗  そういうあなたは、つ、土屋モグラさん……!
モグラ  ここで会ったが、こんにちは。おまえ、また陰で選挙違反してるな!
白旗  ばか言わないでちょうだい!こんなか弱い娘を捕まえといて。ひどいじゃない。(グスン)ここ、旧友の家なの。たまに会ったもんで、話し込んでいたのよ!ねえ、旧友!
シメジ  えっ?ええ……。
白旗  ほら、見て、言った通りでしょ。
モグラ  名前はなんていうんだい!
白旗  な、名前……?……。ひどい、ひどい!そんなに私をいじめないで……。そんなふうにされたら悲しくなっちゃう……。
モグラ  はっ、はっ、はっ、みろみろ、答えらんねえ!目的遂行のためには手段を選ばず。人のやった政策を、あたかも自分達がやったように平気で嘘をつくコソドロ党め!!そんなふうにいい子ぶってないで、悪党なら悪党らしくしてみろ!!
白旗  (翻って)何だっちゅうんじゃい!われ!
モグラ  正体を現した……。
白旗  少し優しく出てればつけあがりやがって!ああ!!そう言うおめえさんは何しに来たんじゃい!
モグラ  わ、私か?私はここのマツタケさんに会いに来たんだ。あの、マツタケさんはいる?
シメジ  お姉ちゃん、へんな人達が来てるわよ!
白旗  おめえさん、その手土産を渡すつもりだろ!贈賄だぞ、贈賄!
モグラ  これは以前マツタケさんから借りたんだ。それを返しに来たんだ!
白旗  中身は何だ!
モグラ  か、缶詰のつめあわせだよ。
白旗  普通、そんなもの借りる?のしまでついているぜ!
マツタケ  だあれ?お客さん?
モグラ  やあ、マツタケさん。これこのあいだお借りしたの、返しに来た。
マツタケ  あなた、誰だっけ?
白旗  あああああ!(モグラを指差す)
モグラ  やだなあ、私ですよ、私。土屋モグラ。
マツタケ  ああ、あなたね!毎日毎日遊説でうるさいの!もっと静かにやってちょうだい!
白旗  あーあ、嘘がばれちゃった。
モグラ  (白旗に)君は僕の選挙活動の邪魔をしてるのかい?選挙妨害だぞ!
白旗  選挙妨害をしているのはそっちの方でしょ!
舞台  コゴミ、戻ってくる。
コゴミ  あれ?土屋モグラさんと白旗ふり奈さんじゃないですか。どうしてここに?戸別訪問は法律で禁止されているはずですが。
白旗  人間党候補、松山コゴミ……。
コゴミ  まあ、ぼくはあまりいい法ではないと思いますがね。選挙とは本来、候補者が各家庭を訪れて、一対一の対話を通して、政策や人間性を訴えていくべきものです。それが、あなたがたのように、悪いことをする人が増えたために、法律で取り締まるようになってしまったのです。
モグラ  なにい!生意気な!
コゴミ  まあ、立ち話もなんです。あがって、お互いの政策について議論しあおうではありませんか。その方が、いい政策が見つかると思います。
モグラ  おもしろい!受けて立とう!
白旗  望むところよ!
舞台  三人の候補者、机をはさんで座る。そこにのびろが帰ってくる。
のびろ  何やってんの?ちょうどいいものを買ってきたんだ。(袋から田原宗一郎変装グッツを取り出し変装する)


シーン10

舞台  いきなり「サンデープロジェクトのテーマ」流れる。中央には田原宗一郎(物語では俵宗一郎とする)に扮したのびろ、脇にアシスタントのシメジ。それを中心にして、下手側に自由ファシスト党土屋モグラ、人間党松山コゴミ、上手側になんでも反対党白旗ふり奈、民間女性を代表してマツタケが座っている。バックには大型画面のテレビモニタが据えられ、そこには自由ファシスト党党首名知須人良が映っている。
俵  みなさんこんにちは、俵宗一郎です。いよいよ、間近に控えた選挙ですが、今日は各党を代表してお集まりいただきました。まず、自由ファシスト党の土屋モグラさん。
モグラ  よろしく。
俵  次に最年少候補、人間党の松山コゴミさん。
コゴミ  どうぞよろしくお願いします。
俵  そして、なんでも反対党の白旗ふり奈さん。
白旗  どうも、どうも。
俵  そして、今日は特別に、民間の女性を代表して裾野マツタケさんにもおいでいただいております。国民の視点で発言いただけけばと思います。
マツタケ  これ、テレビに映っているの?(Vサインをしまくる)
俵  それでは議論に移りたいと思います。
名知須  (テレビの中から)おい!誰かを忘れておらんか!
俵  ああ、失礼。自由ファシスト党党首名知須人良さんと衛生中継で結んでおります。よろしくお願いします。
名知須  おお、よろしく。
俵  それでは、まずはじめに今回の選挙における意気込みを一人一人に聞きたいと思います。まず、自ファの土屋さんから。
モグラ  そうですね、全力で戦うのみですね。自ファ党は国民のみなさんのためにあります。私たちを信用していただきたい!
俵  それでは反対党の白旗さんにいきましょうか。
白旗  国民のみなさんは今の政治をどう思われますか。私は許せない。数の力で政治を動かそうなんてとんでもないことです。今回の選挙では、是非とも“なんでも反対党”のこの私にお願いします。ちなみに恋人募集中です。
俵  では最後に人間党の松山コゴミさん。
コゴミ  はい。政治は国民の皆様のためにあるものです。
モグラ  そんなあたりまえのことを言ってどうするんだね。我々だってそんなことは百も承知だ。
マツタケ  そのあたりまえのことができていないから、あえて言ってるんじゃない!ねえ、コゴミちゃん。国民を苦しめる政策を作る政治家なんか、もう失格。さっさとやめてもらいたいわ!ねえ、コゴミちゃん。
コゴミ  はい。人間党の松山コゴミです。がんばります。
俵  さっそく議題に移ろうと思いますが、まず、このパネルをご覧下さい。
シメジ  これは戦後から現在に至るまでの景気の動向を示したものです。気になる昨年九八年の数値ですが、パネル内に書き込むことができませんでした。ちなみに表すとすると、(立ち上がって客席に赤い印をつける)ここになります。
俵  この戦後最大の不況をどう切り抜けるか、各党の政策をお話し下さい。それでは土屋さんから。
モグラ  はい。非常に深刻な問題です。自ファとしましては、まず、消費税を五〇%に……、
名知須  (テレビの中からハリセンでモグラをひっぱたく)
モグラ  ああ、いやいや……。消費税を当面凍結した上、大幅な減税を行います。
白旗  反対!
俵  白旗さん、ちょっと待って下さい。消費税凍結、本当にやりますか?
モグラ  ええ……!?あ、あのお、そのお……。
俵  党首の名知須さんに伺いましょう。名知須さん、いま土屋さんが言いました消費税凍結と大幅減税、本当にやりますか?国民の前ではっきりさせましょう!やりますか?やりませんか?
名知須  それはですね、党内で充分話し合った上でですね……。
俵  そんなことは聞いてないんです。あなたの腹を聞いているんです。
名知須  ですから、私の一存では、申し上げるわけには……。
俵  そりゃ無責任じゃないですかね。国民が一番気になっているところを……、
名知須  俵さん、俵さん、私、新幹線の時間が……。
俵  では、行く前にはっきりさせましょう。やりますか、やりませんか!
名知須  私としましてはですね、来月の党会議でですね、そのお、前向きにとらえてですね……、
俵  やる?やる?やりますね!はい、やるそうです。
白旗  反対!
コゴミ  減税には賛成ですが、消費税の凍結はいろいろ問題があると思います。
マツタケ  そうよね、凍結はありがたいけど、国会で決まって実施されるまでには時間がかかるわ。その間消費者はますますものを買わなくなる。
シメジ  不況に拍車がかかって日本は沈没!ドシャーン!あーらら。
コゴミ  そのとおり。いまは一刻の猶予もできない深刻な状況です。いま、早急に必要なことは、日本経済のお金を動かすことです。
白旗  反対!
俵  白旗さんの意見も聞きましょう。
白旗  反対。私は反対です。反対と言ったら反対!
俵  そうですか。では、不況にともなって深刻になっている失業率の問題ですが……。
白旗  私に聞いておるのか?
俵  いや、皆さんに。
モグラ  失業率の問題もこれまた深刻な問題でして、いまや日本の失業率はアメリカを上回っています。この辺も党内で話し合ったのですが、レインボー介護計画の一貫として扱ってみては、との意見が有力になっております。
俵  レインボー介護計画?と申しますと……?
モグラ  はい、老人と病人を島に流してですね、自給自足の……、
名知須  (モグラをハリセンでひっぱたく)いやいや、レインボー介護計画とは、無人島を夢の島と名付け、そこに虹色の橋をかけ、社会的弱者のための療養施設を建設する計画です。そういった島をいくつも作って失業者に提供しようというものです。
俵  ほう……。
シメジ  虹って奇麗だけど、すぐ消えちゃうのよね。
コゴミ  無駄な税金になることは明らかです。
名知須  人間党は黙っておれ!お前達は十年前に犯罪人を出しておるんだぞ!
白旗  おお、思い出した。確か、当時、人間党の党首をやっていた森山霊芝。そうだ、森山霊芝だ。
モグラ  そうだ、収賄容疑で逮捕されて、当時、大変な騒ぎだった。御飯重工の重役から、賄賂を受け取ったんだ。
白旗  そうだ、そうだ。
モグラ  そんな党の発言など聞く耳にもたん!
名知須  人間のための人間党。聞いてあきれるわ!ふん。
白旗  森山霊芝か、いたな、そんな政治家……。
モグラ  誠実が売り物とか……、大嘘付きの男。政治家の風上にも置けない……。森山霊芝。
名知須  ふ、ふ、ふ、ふ……。


シーン11

舞台  暗転。「お前の父ちゃん、人騙し。人騙し。おまわりさんに捕まって、煮ても焼いても食われない!」(童歌風)の音、小さく入る。のびろにスポット。その間、他の人はける。
のびろ  違う!冤罪だ!!……。僕の父さんは人を騙したりなんかしない!!
舞台  照明復興
コゴミ  (立っている)おじさん、どこかで見た人だと思ってました。あなた、元人間党党首森山霊芝さんの一人息子、森山のびろさんですね。
のびろ  (うなずく)
コゴミ  力を貸して下さい。人間のための政治を実現するために。
のびろ  コゴミくんっていったね。一度挫折した人間は、もう、使えないんだ……。ごめん……。協力できない……。
舞台  暗転。


【第3場面】

シーン12

舞台  シメジとマツタケ、お茶を飲みながら雑談をしている。そこへ顔にマジックでメガネを描いたゼンマイ、大喜びで上手より現れる。玄関より入り、ルンルンいいながら机に座る。
ゼンマイ  お茶ちょうだい。
シメジ  (お茶を注ぎながら)なあに?その顔。何かいいことでもあった……?もしかして!?
ゼンマイ  そのとおり!就職口が決まったぜ。
マツタケ  うそ!物好きな経営者もいるものね。
シメジ  おめでとう、ゼンマイさん!
ゼンマイ  話しを聞いたら、俺にもできそうなんだ。ただ寝てればいいんだって。
マツタケ  そんな仕事あるわけないじゃない。
シメジ  で、どこどこ。どこに就職するの?
ゼンマイ  須高動物園。
シメジ  動物園……?
ゼンマイ  最近メガネザルが死んじゃったんだってさ。で、俺が面接に行ったら、いきなりマジックでこういうふうに描かれて、ただ檻の中に入っていればいいから、明日から来てくれって!もうラッキー!
シメジ  ああ……、そ、そう……。よかったわね。
ゼンマイ  ようし、バリバリ働くぞ!(奥へはける)


シーン13

のびろ  (奥より登場。元気が無い)どうしたの?景気がよさそうだね。
シメジ  ゼンマイさんのね、就職が決まったの。
のびろ  あ、そう。よかったね。
シメジ  どうしたの?元気がないわね。
マツタケ  この前から変なのよ。風呂桶の水漏れは直してくれないし、障子の張り替えもまだ。
のびろ  あれ?そうでしたっけ?すいません。
シメジ  コゴミちゃんから聞いたわよ。のびろさんのお父さん、政治家だったんですって?
のびろ  その話しはやめて下さい。
マツタケ  もう、あんた、はっきりしないわね!一体あなた、何をしたいの!職を転々として、それでいいの?あなたの本当にやりたいものは何!
のびろ  僕の父さんは、元人間党の党首でした。それは高潔で、嘘や曲がった事が大嫌いな人間でした。僕はそんな父さんを幼少の時から見てきた。国会議員になってから、父さんは日本の政治家の無責任さを痛感するようになりました。そして、真に人間のための政治を行おうと、人間党を結成したのです。当時、父さんは口癖のように言っていました。「のびろ、権力というのは恐ろしいぞ。昔、大学のキャンパスや図書館などで、日本の将来の希望や夢の実現を語り合い、共に泣き共に笑った腹の分かりあった旧友達が、ひとたび権力を手に入れた時、国民を裏切り、私を裏切っていった。権力は魔性だ!絶対に相まみれるな!たとえ一人になっても戦うのだ!」と……。父は社会的に弱い立場の人を守る政策を次々行い、自分は質素な生活を好んでいました。そんな、父さんが収賄なんてするはずがないのです!権力の魔性に支配された、保身のみで政治を行っている自由ファシスト党の陰謀に決まっている!
シメジ  のびろさんのお父さんて、すごい人……。その後、お父さんはどうなったの?
のびろ  心臓をわずらっていまして、四畳の狭い牢獄の中で、死にました。
シメジ  そう……。
マツタケ  でも、お父さんはすごいけど、のびろさんはすごくないわ。偉大なお父さんを持った息子の生き様じゃないもの。
のびろ  僕だって戦っている!
マツタケ  うそ!!あなたは政治家になりたいはずよ。お父さんの冤罪を晴らし、自分もまた父親のような、国民に尽くせる政治家になりたいはずよ!
のびろ  僕にはできない……。
シメジ  よわ虫!!挫折がなによ!力がないからなんだっていうのよ!
マツタケ  シメジ!
シメジ  だって、お姉ちゃん……。
マツタケ  のびろさん、人はみんな人生をかけた旅路の上で、一度や二度、必ず袋小路にぶつかるものよ。私も七年前、最愛の旦那を亡くしたの。クマ吾郎っていってね、とっても優しい人だった。その時はどうしようもなく悲しくてね、一年間涙を流して暮らしたわ。
シメジ  何も食べれなくてね、げっそり痩せちゃってた。今はこんなんなっちゃたけどね。
マツタケ  うるさい。―――。死のうかとも思った。でも思い直したの。いくら嘆いたって悲しんだって、死んだ人間はもう帰ってこない。それなら今生きている人のために働こうって。私にはシメジがいる。バカだけど気のいい住人たちがいる。クマ吾郎は当時旅館をやってたこの裾野館を心から愛していた。それなら私はその意志を継いで、この裾野館を守っていくことが、クマ吾郎が生き続けていくための唯一の道だって……。だから死ぬのはやめたの。クマ吾郎を本当に殺したくなかった……。
シメジ  お姉ちゃん……。クマ吾郎兄さんはいつもここにいるわ。
マツタケ  そうよ、シメジ……。(のびろに)あなたも生きている。でも今のあなたは、生きながら死んでいるように見える。そして、あなたのお父さんも……。
のびろ  ……。
マツタケ  どうやら無駄なようね……。まあ、一度しかない人生、楽しく生きようよ。(立ち上がって部屋に行ってしまう。〜照明フェードアウト。シメジ、のびろのところのみ光残る)
シメジ  のびろさん、これでいいの?
のびろ  いいんだ……。
シメジ  私、引きずると思う。のびろさんが歳老いて、死ぬまで引きずると思う。それでもいいの?
のびろ  ……。


シーン14

舞台  のびろにスポット。
霊芝  のびろ、何をしておる!(下手袖にスポット。そこに立っている)
のびろ  父さん!
霊芝  お前がやらなければ、一体だれが私の精神を受け継ぐのか?
のびろ  僕は!僕は父さんに濡れ衣を着せ、牢獄で殺した権力者どもを絶対に許さない!
霊芝  立て!
のびろ  奴等は体裁のために政治をおこない、保身のために選挙に望む!他人のことなどまるで考えない、頭でっかちの猿だ!
霊芝  立て!
のびろ  自分のことしか考えられない動物に、どうして国民の心など理解できよう!
霊芝  立て!
シメジ  のびろさん!(照明復興)
のびろ  僕は職を転々とする中で、様々な屈辱を味わってきた。そして、それでも懸命に生き抜こうとする愚直な庶民の、苦しみとあえぎを見てきた。経営苦に陥る社長、給料が出ないと嘆く従業員。災害で家を失った一家。家族に見放された寝たきり老人。学校にも親にも相手にされない高校生。不治の病と格闘する病院の患者さん。かと思えば、お金欲しさに犯罪に走る若者達。あまりに安易に人の命を奪う殺人者……。すんなりエリートコースを進んできた、名前だけ一流の大学出のインテリに、そんな人々の苦悩を、どうして理解することができるものか!
シメジ  そうよ、政治というのは、そういった不幸をなくすため、細かいところにまで行き届く、政策を考え、打ち出すためのものじゃないの?
のびろ  だが、それを言えば、今の政治家はやっているというだろう。しかし、今の世の中、一体何が変わっているというのか!!名もなき庶民は、そういった政治屋の口車に乗せられて、苦しめられるだけ苦しめられて……!
シメジ  のびろさん……。
のびろ  そうだ、父さんは言っていた……。(暗転)
霊芝  (スポット)今、日本人の政治不信は国中に広がってしまった。「誰が政治を行っても同じ」と、諦めてしまった。手放してしまった。やがて、国民は言葉を失い、政治屋と同じ利己主義に陥ってしまうだろう……。
のびろ  いけない!もはや権力者の思う壷だ!
レイシ・のびろ  民主主義とは名ばかりの、日本はファシズムに向かっているのだ!(霊芝側スポット消え、その間に霊芝はける)
のびろ  だめだ!叫べ!叫べ!叫べ!勇気を奮い起こし、正義をこの手に取り戻すのだ!
シメジ  (照明復興)そうよ、のびろさん。私、のびろさんを信じる!
のびろ  ありがとう、シメジさん。僕はたった今、立ち上がった。真に人間のための政治を行うために結成された人間党の、父さんの精神を蘇らせた!こんな“人のため”の政党があるなんて、人は誰も信じないかもしれない!だけど、実績だけは嘘を言わない。いつか、この不況の最大の危機に、日本を救ったのは人間党だったと、庶民に感謝される日が来るまで、僕は戦おう!父さんの名にかけて!
コゴミ  (奥より登場)のびろさん!
シメジ  コゴミちゃん。
のびろ  そういうわけだ。よろしく。
コゴミ  戦いは佳境に入っています。よろしくお願いします。
のびろ  敵を味方に変えていくんだ。(コゴミと握手)
シメジ  私、絶対応援するから!
舞台  暗転。


シーン15

舞台  エノキとマイタケ、机で相変わらずメールのやり取りをしている。そこへシメジ部屋より登場。
シメジ  あら、あなたたち、またメールのやり取りしてるの?(二人を眺めながら)ふうん、思い出しちゃうな、私がまだ中学生だった頃。好きな男の子がいてさあ……。もう、はずかしい!(エノキの首をしめる)もっともまだパソコンなんて一般的じゃなかったから、Eメールなんてなかったけど。時代が変わると気持ちのやり取りの形も変わるのね。
エノキ  へえ。シメジさんの、時代はどうやっていたんですか?
シメジ  そうね、電話かな?手紙を書いたこともあったなあ。交換日記なんてのも流行っていたわ。いやん、はずかしい!(エノキをつきとばす)
のびろ  (奥より松山コゴミのプラカードを持って登場)ああ、忙しい。(エノキとマイタケに気付き)なんだい君たちは、まだそんなことをやっているのかい。口があるんだから、ちゃんと言葉を使ってしゃべろうよ。
エノキ  おじさんとは世代が違うんだからほっといてくれよ。
のびろ  世代なんか関係ないものだってあるんだ。未来の日本は君たちが作っていかなきゃいけないんだ。ちょっと立って。(エノキを立たせる)エノキ君、マイタケちゃんが好きなんだろ。
エノキ  違うよそんなんじゃないよ。
のびろ  いいよ、言わなくて。でも、伝えたいことがあるからこうやってEメールでやり取りしてるんだろ。
エノキ  そりゃそうだけど……。でも、なかなか伝えられないんだ。
のびろ  わかるよ。僕もそうだった。自分の思いがうまく言えなくて、何度ふられたことか……。でも、一番伝えたいことだけは、自分の口で、自分の言葉で伝えた方がいいと思うよ。声っていうのはすごいんだぞ!人の心を動かすことができる。
エノキ  文字だって同じだよ。だって本読んで感動する時あるじゃん。
のびろ  そりゃそうだけど……。最近の中学生は屁理屈ばかり……。声には即効性があるの!
エノキ  で、どうやって伝えるんだい?
のびろ  世話のやける中学生だな。いいかい、見てろよ。(シメジを立たせる)
マイタケ  あーあ、ばかばかしい。勝手にやってれば。(そっぽを向く)
エノキ  ほんと、ばかばかしい……。
のびろ  話しを聞け。(シメジを見て)ああ、まぶしい!何だろうこの光は?あれは東、するとあなたはさしずめ太陽だ。美しい太陽、さあ、昇れ!昇ってこの嫉妬深い月を殺しておくれ!あなたの美しさ故に、月はもう、悲しみに病み、青ざめているのです。
シメジ  ああ、熱がでそう……。
のびろ  恋はどんなことでもするのです。たとえ誰かがこの前に立ちはだかろうと、それが何のじゃまになりましょう。前から君のことが……、好きでした。(エノキに)こういう具合にやってみろ!気持ちを伝えるんだ、思っていることを。
エノキ  なんか、今日のおじさんの言っていること、妙に説得力があるな……。ようし、わかったよ。僕も勇気を出して、思っていることを、声に出して伝えてみるよ!
のびろ  そうだ。それでこそ男だ!
マイタケ  そんな、私、恥ずかしい!
シメジ  ちょっと待ってて!みんな呼んでくるから!(呼びにいく)お姉ちゃーん、たいへーん!エノキちゃんが告白するって!
のびろ  見世物じゃないんだから!
舞台  全員ぞろぞろやってくる。
エノキ  (立ち上がってマイタケの前に行く)マイタケちゃん……。あの、その……、話しがあるんだけど……。
マイタケ  なあに?(立ち上がる)
エノキ  あのさ、言おう、言おうと思ってたんだけど、はじめて会った時から思っていたんだけど、君の、君の……、そのお……、
のびろ  言うぞ、言うぞ……。
エノキ  君の頭のひまわり、変だと思うんだ。
全員  いやん、恥ずかしいん!
のびろ  って、ちょっと違うんじゃないか?
エノキ  ああ、言っちゃた、言っちゃった……。どうしよう……。おじさん、伝えたよ!
のびろ  偉かったなあ……。
マイタケ  そんな!ひどいじゃない!(泣き出す)
ゼンマイ  あああ、泣かせちゃった……。いけないんだ。
マツタケ  世の中には伝えちゃいけないこともあるのに。
シメジ  マイタケちゃん、元気だして!もう、のびろさん!マイタケちゃん、マイタケも言っていいのよ!このおじさんにね、思っていることぶつけちゃいなさい!
のびろ  な、なんだい、みんなして……。僕はただ……、
マイタケ  (スクッと立ち上がり、のびろの前に進む)前から言おうと思ってたんだけどさ、あんた、背低いんじゃない!
シメジ  そうよ!よく言えたわね!偉い、偉い!
のびろ  そんな、人の気にしてることを言わなくたって……。(泣く)
コゴミ  そんなことより、のびろさん、選挙活動にいきましょう。
のびろ  そうだったね。こんなことしている場合じゃない。
コゴミ・のびろ  (玄関に行く)
マツタケ  のびろさん、頑張ってね!
のびろ  ありがとう、マツタケさん。
シメジ  いってらしゃい!
コゴミ・のびろ  (玄関を出る〜遊説開始)


シーン16

舞台  上手より、名知須とモグラ登場。中央でコゴミとのびろと鉢合わせ。
名知須  これはこれは森山のびろさん、よく会いますなあ。今日は子守りかな。
のびろ  そちらこそ税金を使って、今度はどちらのお店へ?
モグラ  一丁目の角にね、いい姉ちゃんがいるところを見つけてね……、
名知須  (モグラをひっぱたく〜のびろに)貴様!また痛いめに合いたいか!
のびろ  ケンカはよしましょう。決着は投票日に……。
名知須  生意気な!貴様ら人間党が、我ら自由ファシスト党にかなうはずがないではないか!
コゴミ  行きましょう。次元が違いすぎます。
モグラ  なんだと、小僧!
のびろ  名知須さん、一言だけ言っておきましょう。僕は負けない!!
名知須  言ってろ、バーカ!こんな奴らを相手にしていても仕方ない。行くぞ!
モグラ  は、はい!
名知須・モグラ  (アッカンベーをして下手にはける)
のびろ  ああいった人権感覚ゼロの人間が政治を動かしているんだ。冷たい世の中になるわけだ。―――。ベルリンの壁に象徴されるように、ソ連や東ドイツが崩壊し、共産主義は既に遠い過去のものとなった。北朝鮮を見ても分かるように、共産主義の結末はファシズムと何ら変わらない。かといって、日本やアメリカのような自由主義社会も行き詰まりをみせている……。これからの世の中でキーワードになるのは、“人間”だよ。それには、国民一人ひとりが、政治に対してものを言わなければならない。さっきのエノキ君やマイタケちゃんのように、勇気を出して自分の意志を伝えなきゃ……。
コゴミ  そうですね……。
のびろ  それにしても思い出しちゃうなあ……。僕も昔、好きな人がいてねえ……。
白旗  (遊説をしながら登場)こちらは白旗ふり奈でございます……。
のびろ  なかなか思いが伝えられなくて。ある日、やっとの思いで言ったんだ。(ちょうど近くにきた白旗の手を取る)君が好きだ!……って、(白旗に気付く)あれ?
白旗  そんなあ、急にそんなこと言われても……、ふり奈、困っちゃう、困っちゃう!じゃあ、式は来月にしましょう!
のびろ  うわあ!た、助けて!(逃げる)
白旗  待ってえ、ダーリン!(追いかける)
マツタケ  どうしたの?騒がしいわね。(外に出る)
全員  「なになに?」「どうしたの?」と言いながら、外に出る。そのうちみんなで追いかけっこが始まる。
白旗  のびろさーん!私、もうあなたに尽くすー!
のびろ  助けてー!
全員  大騒ぎ。
舞台  緞帳下りる。