AIの実験・検証・研究 その1

 

画像生成AIツール『Leonardo.Ai』で
ビクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』の
ファンティーヌの画像を生成してみた。

 

このページでは、創作する人間を脅かすAIの実力を検証してみます。

※2023年4月現在、筆者はAI画像生成ツールは全くのド素人です。

 

このページを作ろうと思ったきっかけ
このところ様々なAIツールの出現が世間を騒がせています。その一つに、文章入力だけでかなりの精度でその絵を生成してくれるものがあります。そこでどれほどのものか検証したくなり、世界的大文豪ヴィクトル・ユゴーの登場人物をどこまで描くことができるか実験してみました。
ヴィクトル・ユゴーが一つの事柄を表現するために駆使する描写と比喩はすごい文章量だと筆者は思っています。今回扱うファンティーヌという悲劇の女性が最初に登場する場面においても、その姿を描写するのに実に単行本で3ページもさいています。
さて、その姿をAIは描くことができるのでしょうか?

 


ファンティーヌの描写 原文の確認
(岩波文庫 豊島与志雄訳『レ・ミゼラブル』より)

 

ファンティーヌに至っては見るも喜ばしい女であった。そのみごとな歯並びは明らかに神から一つの職分を、すなわち笑いを、授かっていた。長い白ひものついた麦藁編みの小さな帽子を、頭に被るよりもむしろ好んで手に持っていた。そのふさふさした金髪は、ややもすれば波打って容易に解けやすいので絶えず押さえ止めなければならなかった、そして柳の木の下を逃げてゆくガラテア姫にもふさわしく思われるのだった。その薔薇色の唇は人を惑わす魅力をもってむだ口をきいていた。その口の両端は、エリゴーネの古代面におけるがように肉感的にもち上がっていて男の元気を励ますように見えた。しかし影深い長い睫毛は、顔の下部のそのはなやかさの上に、それを静めるためででもあるかのようにしとやかに下がっていた。その全体の服装は、歌うがごとく燃ゆるがごとく、何ともいえない美しさだった。葵色の薄ものの長衣をつけ、海老茶色の小さな役者靴をはいていた。靴のリボンは、真っ白な細かな透き靴足袋の上にⅩ形に綾取られていた。それからモスリンの一種の胴着をつけていた。それはマルセイユで初めて作られたものでカヌズーという名前のものであるが、その名は、キャンズ・ウー(八月十五日)という語をカヌビエール地方でなまってできたもので、上天気、暑気、正午、などの意味を有するのである。他の三人は、既に述べたとおり、それほど内気ではなく、すっかり首筋を露わにしていた。それは夏には、花を一面につけた帽子を被ると、非常に優美で男の心を苛ら立たせるのである。しかしそれらの大胆な装いの傍にあって、金髪のファンティーヌのカヌズーは、同時に肌を隠すようでも現わすようでもある透明な不謹慎なかつ控え目な様を呈して、人の心をそそる珍しい上品さをそなえていた。そしてあの海のように青い目をしたセット子爵夫人が主宰していた有名な恋愛会は、しとやかさを目ざしたこのカヌズーに妖艶の賞を与えたことであろう。最も素朴なものは時として最も賢いものである。往々そういうものがある。

顔は燃ゆるがようで、顔立ちは優美で、ごく青い目、大きいまぶた、甲高の小さい足、かっこうのよい手首と足首、所々に血管の青い筋を見せている真っ白い肌、あどけない瑞々しい頬、エジナ島で見い出されたジュノーの像のように丈夫な首、しっかりしてまたしなやかな首筋、クーストーが彫刻したかと思われるようで真ん中にモスリンを透かして肉感的なくぼみが見えている両の肩、夢想で和らげられてる快活さ、彫刻のようで美妙な姿、そういうのが即ちファンティーヌであった。そしてその衣装の下には一つの立像があり、その立像の中には一つの魂があることが見えていた。
 ファンティーヌは自ら知らずしてきれいであった。世にまれな夢想家ら、何物をもひそかに完成に比較する美の不思議な司祭らは、この小さな女工のうちに、パリー婦人の透明な美を通して、古代の聖い階調を見い出したであろう。この下層の娘はその美の血統を持っていた。彼女は風姿と調子との二つの種類において美しかった。風姿は理想の形体であり、調子はその運動である。

われわれはファンティーヌをもって快楽そのもののように言った。が、ファンティーヌはまた貞淑そのものでもあった。

彼女をよく注意して見る時には、その年齢と季節と愛情との酔いを通して彼女から浮かび上がって来るところのものは、内気と謙譲とのうちに消し難い表情であった。彼女はいくらかびっくりしたようなふうをしていた。その潔いびっくりした様こそは、サイキーをヴィーナスと異ならしむる色合いである。彼女の真っ白な長い細い指は、金の留め金で聖火の灰をかきまわすという貞節を守る巫女のそれのようだった。後で明らかにわかるとおり、彼女はトロミエスに対しては何事も拒まなかったけれども、その穏やかな平時の顔はまったく処女のようだった。まじめなそしてほとんどいかめしい一種の威厳が時々突如として現われた。そして快活さが急に消え失せて何ら推移の影を見せないで直ちに沈思の趣に変わってゆく様子は、まったく不思議な驚くべきことだった。その突然のそして時としては厳めしくきわ立って見えるまじめさは、女神の軽蔑にも似ていた。額と鼻と顎とは、割合の平衡とはまったく異なる線の平衡を示していた。そしてそれによって顔立ちの調和が取れていた。また鼻の下と上唇との間のごく目につきやすい間隔のうちには、見えるか見えないかの魅力あるしわがあった。それは貞節の神秘な兆で、バルバロッサをしてイコニオムの発掘の中に見い出されたディアナに恋せしめたところのものである。

恋は過ちである。さもあらばこそ、ファンティーヌは過ちの上に浮かんでいる潔白そのものであった。

 

本の挿絵のファンティーヌ

 

はじめに本の挿絵にあるファンティーヌを紹介します。

 

 

これは『レ・ミゼラブル』が書かれた頃と同じ19世紀の木版画のようですが、白黒でさすがに写真のようにはいきません。しかしファンティーヌのイメージに最も近いと思われます。

さて、AIはどこまで描くことができるでしょうか?

Step1

 

なにはさておき、最初は何も考えずに原文をそのまま“プロンプト”と呼ばれる設定窓に流し込んでみました。


ところが文章が長すぎて半分くらいしか入りません。

おまけに出力された画像がいきなり、、、

 

とてもお見せできるものではありません!(汗)

 

 

文章の前半分だけとはいえ、どこにこんな卑猥な表現があるのでしょうか?AIが現代人の思考が作り出したものであるなら、現代人の平均的な頭の中は、ユゴーのファンティーヌの部分を読んで、皆このような事を考えるということでしょうか?(笑)

 

また、これは後で分ったことですが、プロンプトを日本語で入力すると日本人が出力されるようです。

 

気を取り直して次に進みました。


 

Step2

 

文章が長すぎたので、流行りのchatGPTに要約してもらい、さらに英訳してもらいました。 それが次です。

 

【要約文】
彼女は美しい歯並びと、手に小さな帽子を持ち、押さえ止めなければならないほどのふさふさした金髪を持っていた。彼女の口元は肉感的で男性を魅了し、影深い長い睫毛は静かに下がっていた。彼女の服装は美しく、透明で控えめなカヌズーを着ており、人の心をそそる上品さを備えていた。ファンティーヌの顔立ちは燃ゆるように美しく、青い目、白い肌、丈夫でしなやかな首筋、とても魅力的だった。

 

【英訳】
She had a beautiful smile with well-aligned teeth, a small hat in her hand, and a thick mane of golden hair that had to be restrained. Her lips were sensual and alluring to men, and her long, dark eyelashes hung quietly. Her clothing was exquisite, with a modest and transparent canezou that exuded a seductive elegance. Fantine's facial features were stunning, with burning beauty, blue eyes, fair skin, a strong and supple neck, and a very captivating appearance.

 

そして出力したのが次の画像です。

 


う~ん、、、微妙……。(笑)

Step3

 

そこでわけも分からずいろいろいじっていきました。

 

プロンプトの設定を替えるたびに奇想天外な様々な画像が出力され、もう楽しくて仕方ありません!

 

そうして少しは近づけたのではないかと思えるものがいくつか出力されました。

 


 

しかし、最終的なプロンプトの設定を見てみると、もはやユゴーの文面とはかけ離れたものになっています。

「こんな言葉はユゴーではない!」と、愕然と肩を落とす筆者でありました。

 

とはいえプロンプトの設定の仕方も少しは覚えたし、文章ではなく単語で指定した方が良さそうだったので気を取り直して次に進みました。


 

Step4

 

要はファンティーヌはどのような顔をしているかが知りたいので、全身は諦めて、原文に書かれた顔に関わる部分の単語や要素を拾い出し、重複してる部分をまとめて書き出してみました。

 

【ファンティーヌの顔の特徴】

笑顔, パリの女性の透明な美, 調和の取れた顔立ち, 優美な顔立ち, 真っ白い肌, 燃ゆるような顔, 上品, 快楽と貞淑そのもので神秘的, 妖艶,美の血統, 処女のよう, まじめ, 過ちの上に浮かぶ潔白 額と鼻と顎とは割合の平衡とはまったく異なる線の平衡, 鼻の下と上唇との間のごく目につきやすいところに見えるか見えないかの魅力あるしわ, 大きいまぶた, 影深くしとやかに下がった長い睫毛, 海のように青い目, あどけない瑞々しい頬, 人を惑わす魅力の口, 神から授かった見事な歯並び, 薔薇色の唇, 波打って容易に解けやすいふさふさした金髪, 顔の下部は華やか, ジュノーの像のように丈夫な首, しっかりしてしなやかな首筋, 真ん中にモスリンを透かして肉感的なくぼみが見えている両の肩

 

【英語にしたプロンプトの要素】

smile, The transparent beauty of Parisian women, harmonious facial features, graceful features, pale skin, burning face, Classy, Pleasure and chastity itself are mystical, bewitching, beauty pedigree, like a virgin, serious, Innocence floating on top of mistakes Forehead, nose and chin are equilibria of lines quite different from equilibria of proportions, Attractive wrinkles, visible or invisible, in the most conspicuous place under the nose and between the upper lip, big eyelids, Long eyelashes that fall gracefully in deep shadows, blue eyes like the sea, Innocent fresh cheeks, Mouth of alluring charm, God-given magnificent teeth, rosy lips, wavy and easily untangled bushy blond hair, The lower part of the face is gorgeous, A neck as strong as the statue of Juno, firm and supple neck, Both shoulders with voluptuous hollows visible through the muslin in the middle

こうして出力したのが次の画像です!

 

 

おおっ!AI、なかなかやるなっ!

 

みなさんはどれが一番ファンティーヌに近いと思いますか?


 

結論

 

作家にとってAIは驚異ではあるが、2023年の現時点においては人間のツールや道具としての域を越えていない。

 

しかし近い将来AIは意思とか自我を持ち、手塚治が『鉄腕アトム』で予言したように自らの人権を主張する時代が来るかもしれない。

 

それを考えると空恐ろしい。

 


 

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