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ライオンの山
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ライオンの山
  脚本:はしいろ☆まんぢう


(登場人物)
  バルシュ・・・・村のリーダー。誠実。
  ローザ・・・・・バルシュの双子の娘のひとり。男まさり。
  ソニア・・・・・バルシュのもう一人の娘。やさしい。
  ケベック・・・・バルシュの仲間。行動的。
  ばあや・・・・・バルシュの母。ローザとソニアの祖母。
  レイフ・・・・・北方人の長。バルシュの宿敵。
  その他


――場面1――

(舞台)  バルシュの家。壁には、歴代の勇敢な英士の肖像画が飾られている。中央に、椅子に座った老婆がひとり。
ばあや   (着物の縫い物の手を休めて)おや・・・?山が笑った・・・。いま、あの「双子のライオンの山」が笑ったね・・・。気のせいか・・・。雄大な太平洋を望むこの村に、成人して、また大人の仲間入りをする娘が二人。今度の祝いの儀式には、大勢の客を招いて、盛大に祝ってあげなきゃいけないね。なんてったて、その二人の娘というのは、私のかわいい双子の孫だからね。あの「双子のライオンの山」も、きっと自分のことのように喜んで、さっき、笑ったのさ。それにしても、風習とはいえ、自分の家のこととなると、こんなに愉快で、緊張するものかね・・・。よし。(着物をかざす)ローザ!ソニア!
ローザ・ソニア  (二人、登場)なあに、ばあや。よんだ?
ばあや   どうしたんじゃ、その格好。
ローザ   (どろだらけ)へへへ・・・。
ソニア   お姉ちゃんね、沼地にはまった子猫を助けたのよ。
ばあや   おや、まあ。
ソニア   ばあや、なあにそれ。(ばあやの手から着物を取って自分の肩にあてがう)素敵!
ばあや   おまえたちの成人の儀式に着る着物じゃ。
ソニア   うれしい!いつの間につくったの?私、ぜんぜん知らなかった。
ばあや   こっちはローザの分じゃ。ほれ。
ローザ   あああ・・・。めんどくさいな。どうして女の子だけそんなお祝いをしなくちゃいけないの・・・?私、男の子に生まれればよかったな。そうすればさ、動きやすい服装で、あの「ライオンの山」にも登れるのに。
ソニア   男の子に生まれなくても、お姉ちゃん、いつも男の子みたいじゃない。
ローザ   なによ!(ソニアを追い回す)
ばあや   双子でもこうも違うものかね・・・。


――場面2――

ケベック  (負傷して登場)うううっ・・・。バルシュさんはいますか。うっ。
ローザ   ケベック、どうしたの!(ケベックをささえる)
ばあや   ソニア、は、早くバルシュを・・・。
ソニア   は、はい。お父様!お父様!(慌てて出ていく)
ばあや   クジラの肝薬、クジラの肝薬・・・。(ソニアの後を追うようにはける)
バルシュ  (登場)どうした、ケベック!
ケベック  バルシュさん、たいへんだ。北方の奴等が、ライオンの山に陣をひきはじめた。
バルシュ  なんだって・・・!
ケベック  おれが山で狩りをしていると、木を切り倒す音と人の話し声がしたんだ。この山に足を踏み入れるのは我々ぐらいしかいないのに、おかしいなと思って音のする方へいってみたんだ。すると、高台を切り広げて櫓を建てていやがる。
バルシュ  あそこからだと、私たちの村の動きが一目瞭然だな・・・。
ケベック  慌ててバルシュさんに伝えようと思って走り出したんだが、奴等にみつかって・・・。
バルシュ そうか・・・、わかった。それより、はやく傷のてあてを。奥でばあやがクジラの肝薬の準備をしている。(ケベックをささえてはけていく)
(みおくるローザとソニア)


――場面3――

ソニア  ケベック、大丈夫かしら。
(ローザ、ばあやが座っていた椅子にこしかけ、頭をかかえる)
ソニア  お姉ちゃん、どうしたの?
ローザ  うん、ちょっとね・・・。
ソニア  お姉ちゃんらしくない。(さきほどの着物を取り上げて、くるっと一回り)楽しみだな成人の儀式・・・。
ローザ  ソニア・・・。
ソニア  なあに?
ローザ  なんで男の人って戦争ばかりするんだろう・・・。
ソニア  あら、おかしいわ。お姉ちゃん、さっき男の子に生まれたいって言ったばかりなのに。
ローザ  でも、戦争はきらい・・・。悲しむ人が大勢でるもの・・・。
ソニア  お父様が背中に大きな傷を受けて帰って来た時も、とても悲しかった・・・。
ローザ  私たちが生まれた時には、すでに、北方の人たちと戦争をしていたわ。戦争のない世の中って、どんなだろう・・・。
ソニア  そうね・・・、けがをする人がなくなるわ。
ローザ  包帯もクジラの肝薬もいらない。
ソニア  それに、武器の手入れや、汚れた軍服を洗わなくてもいいわ。
ローザ  毎日の水汲みが半分になる。
ソニア  家に大勢の人が集まって来て、作戦会議もなくなるわ。
ローザ  そのかわりにパーティができる。
ソニア  食事のしたくも楽しくなるわ。お父様が長い間、家を留守にする事もなくなる。
ローザ  いろんなところに連れてってもらえる。
ソニア  それに、お母様が寂しがらずにすむ。うわあ、考えただけでも楽しいわ。
(二人、笑う〜ため息)
ローザ  なんで、戦争なんかするんだろう・・・。
ソニア  うん・・・。


――場面4――

バルシュ (いきり足で再び登場)こうしちゃおれない。こちらも一刻も早く戦陣を整えて応戦の準備をしなければ。ローザ、ソニア、すまんが仲間達のところへ行って、大至急招集をかけてくれ。
ソニア  私たちの成人の儀式の準備は?
バルシュ ああ、そうだったね。そちらの方も必ずやる。だがね、わかっておくれ、北方のレイフ一族がライオンの山に陣をはりはじめたんだ。こちらの出方が一つ遅れれば、とんでもない惨事になりかねない。事は急を要しているんだ。
ソニア  なんのため・・・?いったい、なんのための戦争なの?
バルシュ ごめんね、時間がないんだ。またあとで、ゆっくり説明しようじゃないか。今は私の言うことを聞いてくれないか。
ソニア  お父様・・・。
バルシュ これは戦争なんだ。戦わなければ、こちらが食われる・・・。
ローザ  お父様!
バルシュ ローザ、そんなに恐い顔で私を見ないでおくれ。
ローザ  ひとつ、お願いがあります。
バルシュ なんだね。
ローザ  私たちもいつの日か母となって、お父様のような力強い指導者となる子供を生む時が来ます。どうかその日のために、北方の人たちも、私たちのお祝いの儀式に招いていただけませんでしょうか。
バルシュ な、なにを言いだすんだ・・・。
ソニア  それは名案だわ!
バルシュ ば、ばかな・・・。いつ襲ってくるかもしれない敵を、祝いの席に招こうというのか・・・!
ローザ  お父様、おねがい!
ソニア  お父様!
バルシュ もうよい。(奥に戻っていく)
ローザ  お父様・・・。
(暗転〜ローザ、ソニアはける)


――場面5――

(バルシュ、ケベック、作戦会議)
ケベック だから、南から攻め入れば、奴等の動きを封じ込めることができる。
バルシュ (気のない様子で)なるほど、北には崖しかない。逃げ場を失うわけか。
ケベック 問題は我が兵力で、どこまで攻め込めるか・・・。応援を頼みましょう。
バルシュ そ、そうだな・・・。
ケベック どうかしたんですか、バルシュさん。さっきから様子がへんですね。作戦会議も上の空といった感じじゃないですか。
バルシュ う、うん・・・。
ケベック バルシュさん、困りますよ。リーダーらしい決断をしていただかないと、我が軍は空転します。
バルシュ 実は、娘達に言われたんだ。なんのための戦争かって。
ケベック この戦争には我が民族の誇りがかかっている!
バルシュ こうも言われたね。私たちもいつの日か母となって、私のような指導者となる子供を生む時がくる、とね・・・。
ケベック そういえば今度、バルシュさんの家は成人の儀式ですね。
バルシュ まだまだ子供と思っていたが・・・。私が戦いのことしか考えないでいるうちに、いつのまにか娘たちは、母となる日のことを考えるまでに成長していたかと思うとね。
ケベック しかし、戦いに弱気は禁物です!
バルシュ 弱気ではない!娘達の案に賭けてみようかと思っておる。
ケベック 案・・・、と、いいますと・・・?
(ローザとソニア、食事とコーヒーを持って登場)
ローザ  あら、気のせいかしら。いつもの雰囲気と少しちがう。
ソニア  はい、コーヒー。
バルシュ おや?どうした、その匂いは。
ソニア  いま入れたばかりなの。
バルシュ コーヒーではない。ソニアとローザからしている匂いだ。懐かしい。
ソニア  あら、やだ。毎日しているわよ。ライオンの山に咲いているお花からつくった香水よ。
ローザ  お母様も、若い頃していたんですって。
バルシュ なんてことだ。戦争にかまけて、私は娘の成長すら気付かずに来てしまったというのか。
ケベック バルシュさん!
バルシュ ようし決断する!お前たちが望む平和の恵みを、いつの日か生まれてくる子供たちに贈るがよい!
ローザ・ソニア お父様!
バルシュ ケベック、私の使いとして、大至急北方の長、レイフのところに行ってくれ。要件は、今度の娘の成人の祝いの儀式に招待する、とな。
ケベック な、なんと!
バルシュ 書簡をいま書く。(奥の書斎にはける)
(ローザ、ソニアも続いてはける)


――場面6――

(北方人の長、レイフの陣〜レイフの前でひざまずいているケベック)
レイフ  あっはっはっはっはっはっ・・・。二十年以上も戦争を続けてきて、掌をかえしたように、今度の娘の成人の祝いの儀式にご招待すると?これを信用する方がおかしいではないか。
ケベック バルシュさんのご意志は、その書簡に綴られている通りです。私から申し上げたいことは、バルシュさんは、けして嘘いつわりを申す方ではなく、今の地位も権威権力によって築かれたものではなく、私どもが慕って、いつのまにか築かれていた地位でございます。(レイフをみつめる)
レイフ  ふん。小気味よい目じゃ。よし、わかった。帰ってバルシュに伝えよ。この招待、受け申す。ただし、信じたわけではない。こちらも、それなりの武装準備をしてまいる。少しでも火薬の匂いや、刃物の音を立ててみよ。この陣より我が軍の兵力全てをもって村を壊滅する。このレイフの命にかえて・・・。
ケベック はっ!
レイフ  さがれ!
(去るケベック〜暗転)


――場面7――

(儀式当日。花や料理で飾られたバルシュの家。女達は大忙し〜中央にローザとソニアが座っている。〜その脇にバルシュもいる)
ばあや  (大きな皿に乗った料理を持って登場)ほうれ、料理ができたぞ。
ソニア  ああ、ばあや、あぶない!(ばあやの料理をささえる)
ばあや  いいんじゃ、いいんじゃ。今日はおまえたちは主賓じゃ。主賓は真ん中で落ち着いているものじゃ。
ソニア  なんか・・・、つまんないな・・・。
ローザ  ソニア、落ち着いて、落ち着いて。
ソニア  わかってる!
(ケベック登場)
ケベック こんにちは!
ローザ  あら、いらっしゃい!(立って、でむかえる)
ソニア  お姉ちゃん、主賓は落ち着いて、落ち着いて。
ローザ  わかってる!
ケベック 今日はお招きいただいて光栄です。あとから仲間達も来ます。(料理を見る)うわあ!すごいごちそう!
バルシュ 今日は娘達の一生に一度の祝いの席だ。思う存分もてなしさせていただくよ。
ケベック すいません。
ばあや  さっ、遠慮はいらんよ。好きなところに座っておくれ。
バルシュ 北方のレイフたちも、もうじき来るだろうからな。
ケベック 本当に、だいじょうぶだろうか・・・。なにごとも起こらなければいいが・・・。
レイフ 部下 (声だけ)レイフ様、到着!
(レイフ、登場)
レイフ  やあやあ、ご機嫌よろしゅう!
ケベック レイフ!
レイフ  今日はバルシュ殿の娘さん方の成人の祝いの席にご招待いただき、身にあまる光栄と思っておる。どんなたくらみか知らんが、わしの後ろには五千の兵が控えておる。下手な手出しは無用だからな。
バルシュ 今日はご足労いただきありがとうございます。こちらが私の双子の娘、ローザとソニアでございます。
ローザ  はじめまして、ローザです。
ソニア  ソニアです。どうぞ、よろしく。
レイフ  おうおう、かわいい娘達だ。今日は、祝いの席と聞いて、お二人にぴったりのプレゼントを持ってきた。これだ。(おそろいの子供用の小さな洋服を広げてみせる)おそろいのおべべじゃ。似合うぞ、きっと。わっはっはっはっ。
ケベック (たちあがり)そんな小さなもの、どうやって着るのだ。今日は成人の儀式だぞ!愚弄する気か!
レイフ  おや、このレイフ様にさからうか・・・?わっはっはっはっはっ・・・!
(飛び出すケベックをおさえるバルシュ)
ローザ  (すかさず)まあ、かわいい!(たちあがり、レイフから洋服をもらう)ありがとうございます。なんて素敵な洋服かしら。私たちに子供が生まれたらきっとお伝えしますわ。このお洋服は北方のレイフ様からいただいたものだと。
ソニア  (たちあがり)きっと子供たちも誇りに思うでしょう。ありがとうございます。
バルシュ (あっけにとられたあと)あっはっはっはっ・・・。素晴らしいプレゼントをいただいたところで、乾杯といきましょう。さっ、レイフ殿にも杯を。
(全員に酒がつがれる)
バルシュ かんぱい!
全員   乾杯!
ばあや  さあさあ、たくさんめしあがっておくれ!雄大な太平洋からいただいた愛の恵みじゃ。北方では召し上がれないものもたくさんあるだろう。さあ、レイフさんも、どんどんめしあがれ!(レイフたちに料理をふるまう)
レイフ  あ、ああ、す、すまんな・・・。
(しばらく、団欒)
バルシュ (少し酔いながら)レイフ、これをみろ!(背中の傷をみせる)十二年前、お前からもらった私の一番大事な宝物だ!あっはっはっはっ!
レイフ  (酔っている)なにをぬかす!(腹を見せる〜大きな傷がある)その時、おれが頼んでもないのに貴様がつけてくれた、わしの戦士の勲章じゃ!がっはっはっはっ。
バルシュ これをみろ!(右腕をまくる〜小さな傷)五年前、おまえがかみついた時の歯形だ。
レイフ  ばかぬかせ!(足をみせる)貴様の歯形じゃ!
バルシュ まあ、飲め。(酒をつぐ)
レイフ  お、おう、すまぬ。(返杯)
バルシュ・レイフ わっはっはっはっはっ・・・!(肩をくむ)
ローザ・ソニア (平和の歌をうたいはじめる)

♪双子の山は歌ってる
 喜びの歌を歌ってる
 小鳥はさえずり
 お花達はかおる
 ツイン・レオズ
 ツイン・レオズ
 私たちの故郷――♪

♪ライオンの山は笑ってる
 何も言わないで笑ってる
 木々はさざめき
 小川はせせらぐ
 ツイン・レオズ
 ツイン・レオズ
 私たちの故郷――♪

♪双子の姉妹は踊ってる
 みんなと手を組み踊ってる
 月は微笑み
 太陽は輝く
 ツイン・レオズ
 ツイン・レオズ
 私たちの故郷――♪

(歌はだんだん大きくなっていき、最後は全員で口ずさんでいく)
ばあや  (立ち上がり部屋を出て行こうとする〜誰もきづかない)大勢でワイワイやっているところは、年寄りにはこたえるわい。それにしてもあの子達は、まるであの双子のライオンの山のようじゃ。いつまでもわし達の平和を見守ってくれるのじゃろ。平和を愛する女の心は強いの。それじゃ、わしゃ、一足先にお暇するかい。(退場)
(いつまでも続く祝いの儀式〜照明フェードアウト)




《備品一覧》
大道具・・・椅子(6)・机(1)・双子のライオンの山
小道具・・・英士の肖像画三枚・着物(2)・軽食(サンドイッチ)・コーヒーカップ(2)・コーヒーポット(1)・お盆(2)・書簡・花・料理(御馳走)・大きな皿(1)・子供用のおそろいの服(2)・杯(6)・徳利(2)・フォーク(6)・スプーン(6)・皿(6)
衣裳・・・バルシュ用・剣・羽の冠
ローザ用・バンダナ等
ソニア用
ケベック用・剣・ヘッドバンド等
ばあや用・ベンダナ・エプロン
レイフ用・黒マント・かぶり物
 
 
> ここは下宿屋裾野館『こんな世間に誰がした!?〜の巻』 第1場面〜裾野館入居者募集のお知らせとホームステイ
ここは下宿屋裾野館『こんな世間に誰がした!?〜の巻』 第1場面〜裾野館入居者募集のお知らせとホームステイ
< 登場人物 >

裾野シメジ………快活で明るい女の子。しかし、突拍子もないことをしでかす。
裾野マツタケ……裾野館の大家で未亡人。気性のはっきりした性格。
山田ワラビ………裾野館の住人。大学10年生。
小沢シイタケ(山手タケオ)………わけあって裾野館に居候することになった怪しいオカマ。
松山ツクシ………とんでる女子高生ママ。経済苦で裾野館に住むことになった。
松山コゴミ………ツクシの子ども。小学校1年生。
ブナじいさん……裾野館の近所に住んでいるボケ老人。
パパイヤ…………裾野館にホームステイすることになったインドネシア人。
親分………………バナナ銀行の頭取に雇われた暴力団。
子分………………親分の子分。
外人

《演劇活動をされている方へ》
この脚本はご自由にお使い下さい。※ご使用の際、お知らせいただければなお嬉しいです。


第1場面〜裾野館入居者募集のお知らせとホームステイ


・・シーン1・・

舞台   裾野館の外で、マツタケがうろうろしながら「裾野館入居者募集」の貼り紙を貼る場所をさがしている。
マツタケ ここがいいわ。ここにしよ。(壁に貼り)これでよし。(眺める)
舞台   そこへ、近所のブナじいさんがうろうろと歩いてくる。
ブナじい おや、おや、マツタケさん。ご機嫌はいかがかな?
マツタケ あら、ブナじいさん、こんにちは。全く、世の中不景気で困っちゃうわ。
ブナじい なんだい、これは?
マツタケ 入居者募集の貼り紙よ。出る人はいても、入ってくる人がいなくて、うちの家計簿は真っ赤っか。
ブナじい なになに、「入居者求む!ようこそ、ウェルカム……」こんなボロ家なくせに、まだやる気?
マツタケ ブナじいさんがまだ生きてんのと同じよ!確かにうちは、昭和20年創建のボロ家よ。でもね、この条件見てちょうだい。家賃月二万円、敷金礼金なし。いまどき、こんな安いとこないわよ。一部屋六畳で、バス、トイレ、キッチンは共同だけど……。
ブナじい こんなお化け屋敷に住むやつの気がしれねえな。
マツタケ なによ、それ!変な噂、流さないでちょうだい!こんな自由気まま、したい放題の暮らしやすい下宿屋、どこ行ったってないから!うちの住人見れば分かるでしょ。
舞台   ワラビ、紙袋を持って、ポーッと鼻歌を歌いながら登場。
ブナじい 噂をすれば、ほれ……。
マツタケ あっ、ワラビさん、いいところに来たわ。
ワラビ  (貼り紙を見る)マツタケさん、入居者募集ですか?うわあ、楽しみだなあ……。どんなかわい子ちゃんが来るんだろう。えりちえみでしょ、天地真理でしょ、南沙織でしょ……。
ブナじい おまえ、なに時代の人間じゃ。
マツタケ ワラビさん、今月の家賃まだでしょ。
ワラビ  (ポーッとして、しらばっくれて中へ入っていく)
マツタケ ワラビさーん!
ブナじい ありゃだめだ。先天的な痴呆症じゃ……。ありゃ?なんで、わしゃ、こんなところにいるんじゃ?あれ?今日、朝飯食ったっけかな?1足す1は、2か3だったよなあ……。(はける)
マツタケ だめだありゃ……。後天的な痴呆症だ。(裾野館に入ってはける)


・・シーン2・・

舞台   シメジ、英語の本を持って登場。
シメジ  あ〜あ、どうしようかなあ……。お姉ちゃん、ダメって言うよな……。お姉ちゃん、昔っから英語、まるっきり苦手だったからなあ。外人さんが来るって聞いただけで、卒倒しちゃうんじゃないかしら。(机に座って勉強を始める。一方、脇のはがきを気にしながら、なんだか落ち着かない)こうして依頼のはがきも来ちゃったしなあ。あ〜あ、ホームステイなんかに応募しなくちゃよかったかなあ……。
舞台   ワラビ、英語の本を抱えて登場。
ワラビ  あ、あ……、シ、シメジちゃん……。
シメジ  ああ、ワラビさん……。
ワラビ  ここ、座っていいですか?(机に座り、おもむろに英語の本を開く)
二人   (一緒に)ア、アイアム……、ア、ボーイ……。(顔を見合わせる)マイ、ネーム、イズ、ビル……。
シメジ  ワラビさん……?
ワラビ  いやあ……、英語を勉強しようかなあ、なんてね。
シメジ  ええっ!?ワラビさんも?私もね、英語を勉強しはじめたのよ。
ワラビ  ええ?シ、シメジちゃんも?偶然だなあ……。
シメジ  ほんと、偶然ね。テキストもほら、全く同じ。
ワラビ  (わざとらしく)あれ、ほんとだ。こんな偶然て、あるのだろうか……。信じられないなあ。きっと、ボクとシメジちゃんは、遠い昔からめぐり合う運命だったんだ。
シメジ  何言ってんの?
ワラビ  ところで、なんで英語なんかの勉強はじめたの……?
シメジ  ワラビさんこそ。
ワラビ  ボ、ボクはシメジちゃんが……、あ、なんでもないなんでもない。
シメジ  実はね、お姉ちゃんにはまだ内緒なんだけど、ホームステイの外人さんを受け入れたいの。いま、ここの住人さんも少ないし、部屋もたくさん空いているでしょ。もったいないし、せっかく市から募集があったのに、いい機会だと思って。それに外人さんとお友達になれば、海外旅行行っても現地で困らないし、もっと大勢の人とお友達になれるじゃない。シメジね、外国で生活するの夢なの……。
ワラビ  ぐ、偶然……。ボ、ボクもそう思って英語はじめたんだ。その時はこのワラビ、お供させていただきます。
シメジ  そ、そうね……。
舞台   シメジとワラビ、気まずそうに英語の勉強をはじめる。


・・シーン3・・

舞台   ツクシとコゴミ、手をつないで登場。
コゴミ  おかあさま、明日は学校の先生が、家庭訪問に来る日でございます。
ツクシ  そうだったわ。チョベリバ。それまでに、住むところ、決めておかなきゃね。この不景気で、みんな気前悪くてさあ、商売あがったりよ。月十万のマンションも追い出されちゃったしー……。(貼り紙をみつける)ひと・きょ・もの・くれ?あつめ……?
舞台   ワラビ、シメジこける。
コゴミ  おかあさま、それは、“にゅうきょしゃぼしゅう”と書いてあるのでございます。
ツクシ  あ、そゆことね。月二万?安いじゃん。よし、決めた!コゴミ、おいで。(コゴミの手を引き、玄関に来てピンポン鳴らす)
シメジ  あら、お客さん。はーい!(玄関にいく)
ツクシ  ここ、入居者募集って書いてあるけど、ホント?
シメジ  ああ、ちょっと待って下さい。大家、呼びますから……。(呼びにいく)お姉ちゃーん!!
ワラビ  まあ、どうぞ、どうぞ。(中に入れる)
ツクシ  なあに、あんた。ここの住人?ダッサッ。
マツタケ (入り際、シメジに)だあれ?うちに入りたいっていう物好きな人……。(ツクシを見て)お目が高い!さあさあ、ここにサインしてちょうだい。(書類をわたす)
シメジ  お姉ちゃん、少しくらい話を聞かなくていいの?
マツタケ いいの、いいの。家賃さえ払ってくれれば、問題ないじゃない。(ツクシの手元をみて)松山ツクシさん……、いい名前ね。ああ、保証人の欄?書きたくなければ飛ばしていいわよ。それじゃ、ここに印鑑押してくれる?
ツクシ  いけね。印鑑忘れちまった。
マツタケ じゃ、いいわよ、拇印(ぼいん)で。
ツクシ  ボ、ボイン……?(急にそわそわして)ちょっと、あっち向いててくんねえか?(オッパイを出そうとする)
マツタケ ちがうちがう。指に朱肉つけて……、
ツクシ  ああ、そゆこと。びっくりした。
シメジ  ところで、あなたたち、ご両親は?
ツクシ  母親は十年前に死んだわ。父親は母親の話によると、家族を捨てて家を出たっきり……。
マツタケ そう、身寄りがないの。たいへんね……。わかったわ、裾野館に入るといいわ。いろんな人がいるから、楽しいわよ、きっと。
シメジ  坊や……。かわいそうに……。それじゃ、お母さんの顔も知らないんだ……。
コゴミ  知ってるよ。
シメジ  え?あ、そうか、写真があるものね。
コゴミ  写真なんかないよ。おかあさまと撮ったプリクラならあるけど。
ワラビ  プリクラ?十年前にプリクラなんてあったっけ……?
マツタケ 坊や、いいのよ、嘘なんか言わなくて。きっと、母親の愛情に飢えて、夜な夜なお母さんの夢を見るのよ。
(マツタケ、シメジ、ワラビ、泣く)
ワラビ  坊や、くじけるなよ。どんな辛いことがあっても、お姉ちゃんと力を合わせて生きていくんだ!
シメジ  偉いのね、がんばるのよ。
マツタケ (号泣)ごめんね、辛いこと聞いて……。
コゴミ  おかあさま、この人たち、へんでございます。
マツタケ お、おかあさま……?
(マツタケ、シメジ、ワラビ、唖然)
ツクシ  私たち親子。文句ある?って感じ。
(マツタケ、シメジ、ワラビ、こける)
マツタケ あなた、高校生でしょ!?
ツクシ  高校生で親になって悪い?
マツタケ 悪くないけど……。
ツクシ  じゃ、ここに住むことに決まったんだから話は早い。私たちの部屋はどこ?(奥にはける)
コゴミ  おかあさま、よかったですね。明日の家庭訪問は、喫茶店でやらなくてすみますね。(はける)
舞台   ツタケ、後に続いてはける。


・・シーン4・・

舞台   シイタケ登場。後ろ向きに女っぽく歩いて来て、中央で正面を向く。客席から笑いが出たら、「ったく失礼しちゃうわ。私のどこがおかしいのよ!」という。
シイタケ どこかに住むとこないかしら……。(キョロキョロして、貼り紙をみつける)月二万……、ラッキー。(玄関に行ってピンポンならす)
シメジ  あら、またお客さんだわ。はーい、どなたですか?
シイタケ ごめんくださいまし。私をここに住まわせてくれないかしら。
シメジ  ああ、ちょっと待ってて下さい。いま、大家は取込中なもので、呼んできますんで。上がって待ってて下さい、おじさん。
シイタケ おじさん?ちょっとあーた、私のどこがおじさんなの!こんな美貌のオカマをつかまえといて……。ったく!
シメジ  なんだかまた変な人がきたなあ……。(奥へはける)
シイタケ (上がり込んで、ワラビの隣に座る)失礼。
ワラビ  おじさん、ここに住むの?
シイタケ おじさん?お姉さんとお呼び!
ワラビ  どこがお姉さんなの?
シイタケ (ワラビの頭をひっぱたく)ところで、あんた、ここの住人?
ワラビ  そうだよ。十年前からここで、お世話になっている大学生です。
シイタケ ようするに、あんたアホなのね。私もアホがうつらないように気をつけなくちゃ。
マツタケ (登場)ああ、おまたせしました。(書類をだして)ここに、サインと印鑑押してちょうだい。
シイタケ 何も聞かないざますの?
マツタケ いいの、いいの。こういうご時世なんだから。安くて住めれば文句ないでしょ。
シイタケ いかん、印鑑持ってないや。
マツタケ じゃあ、拇印でいいわ。
シイタケ ボイン……?(オッパイを出そうとする)ちょっとあーた、私をオカマと知っての言葉?
マツタケ ちがう、ちがう……。指で……、
シイタケ ああ、指でね……。
マツタケ じゃあ、お部屋に案内しますね。
舞台   マツタケ、シイタケ、奥へ行く。
シメジ  なんだか、変な人ばかり集まるのね。(英語の勉強を始める)
舞台   シメジ、ワラビ、英語をムニャムニャ言っている。


・・シーン5・・

舞台   マツタケ、頭をおさえて、戻ってくる。そして、シメジの隣に座る。
マツタケ ああ、頭がおかしくなりそう……。でも、裾野館の経営を立て直さなきゃ。がんばろ!(シメジをみる)ところであんたたち、何やってんの?
ワラビ  英語の勉強です。
マツタケ え、英語……。や、やめてちょうだい。私ね、英語と聞くだけで、じんましんがでるの。英語さえなかったら、学校の先生にもなれたのに……。グスン……。
シメジ  お姉ちゃん、あのね……。ちょっと、話があるんだけど……。
マツタケ なによ、改まっちゃって。
シメジ  う、うん、実はその……、
マツタケ なんだって!
ワラビ  まだ何も言ってない。
シメジ  実はね、ホームステイで、外人さんを受け入れたいの……。
マツタケ な、な、なんだって!?
シメジ  ほら、今、市で、ホームステイのボランティアの募集があるでしょう。
マツタケ シ、シメジ、まさか、おまえ、応募してないでしょうね。
シメジ  しちゃった……。
マツタケ すぐに取り消しましょ。
シメジ  依頼のハガキ来ちゃった……。
マツタケ 急いで、お断わりの電話をいれなきゃ。
シメジ  もう、来る人も決まったみたい……。
マツタケ ダメよ、絶対ダメ!第一、どこに泊めるのよ。それに日本語も通じない人の面倒を、一体だれがみるのよ!私が英語アレルギーなこと、知ってるでしょ!
シメジ  部屋だったらまだ空き部屋がたくさんあるわ。それに言葉だったら、ほら、いまこうしてワラビさんと勉強しているの。身の周りの面倒なら私がみるわ。
マツタケ ダメよ、ダメ!シメジ、よく考えてみなさい。お金にもならない人を入居させるなんて!それに、文化も生活習慣も宗教も全く違うのよ。ただでさえ、うちは変な住人ばっかり集まっているっていうのに!
ワラビ  ぼくのことかな……?
舞台   シイタケ登場
シイタケ 変な住人……?まさか、私のことじゃないわよね……。ちょっと、お茶をいただこうかしら。(机に座りお茶を入れる)
マツタケ シイタケさん、割とずうずうしいのね。シイタケさんからも何か言ってよ。
シイタケ 話が見えませんわ。
マツタケ あのね、ジメジがホームステイで外人さんを受け入れるっていうのよ。
シメジ  シイタケさん、さっき入居したばかりじゃない!何のことだか分からないわよ!
シイタケ ホームステイですか……。いい話じゃないですか。国際化社会ですもの。日本人だ、アメリカ人だ、白だ黒だオカマだという時代は、すでに終わった。
ワラビ  オカマ……?
シメジ  よくわからないけど、そうよね。ワラビさんも賛成よね。
ワラビ  ぼくはシメジちゃんに賛成。OK!OK!
マツタケ ああ、そうですか、そうですか!そこまで言うんでしたらね、あんたたち勝手にしなさい!だけどね、覚えといて、私は一切関りませんからね!
シメジ  お姉ちゃん……!
シイタケ で、その外人さんとやらは、いついらっしゃるのかしら?
シメジ  今日……。
マツタケ きょ、今日!?シメジ、いったいあんた何考えてんのよ!こんな大事な話、いままで内緒にしてたわけ?やりたいならやりたいと、前もって話してくれればいいじゃない!いったいどうするのよ!準備もなにもしてないのよ!追い返すからね!だいたいうちにはろくな人間が集まらないんだから!
シメジ  お姉ちゃん!
舞台   下手側玄関にスーツケースを持った白人があらわれ、呼び鈴を押す。ピンポーン〜全員玄関に視線を向ける。
マツタケ ああ、どうしよどうしよ……。(そわそわ動きまわる)
外人   ハロー!(戸を開けて玄関に入る)
マツタケ 追い返してやる!
シメジ  お姉ちゃん!
マツタケ (外人の前で仁王立ち〜ポッと顔を赤らめ)いい男……。さっ、どうぞお上がりください。
全員   (こける)
外人   エイゴ、ペラペーラー!
マツタケ ちょっと、シメジ、何か言ってるわよ。(奥にひっこみ、シメジを押し出す)
シメジ  わ、私……?どうしよう……、ワラビさん……。
ワラビ  だいじょうぶ、シメジちゃん。ぼくにまかせて……。(外人の前に行く)
外人   ハーイ。
ワラビ  ハーイ。アイ、アム、ア、ボーイ。デス、イズ、ア、ブック。デス、イズ、ア、ペン……。アー、アー、あの、その……。
シメジ  ワラビさん、どいていて、私が話してみる。(ワラビにかわって)Nice to meet you.My name is Simeji Susono.I expected you at any moment. Please,Please come in.
ワラビ  (手をたたく)シメジちゃん、上手、上手。
外人   (両手を広げ)ホワット?
シメジ  (ゆっくり)Nice to meet you…….
外人   (首をふる)ワカリマセン。
シメジ  ナイス、トゥ、ミーチュー……。Do you understand?
外人   ワカリマセン。
シメジ  どうしよう、私の英語、全然通じない……。あんなに勉強したのに……。
マツタケ 誰かいないの?私お友達になりたい〜ん。だれか、だれか……。
シイタケ (立ち上がる)
シメジ  シイタケさん!
シイタケ まあ、どいつもこいつも情けないわね!外人さんの一人や二人でじたばたして。
(シメジ、ワラビをどかして)私にまかせてちょうだい!
ワラビ  シイタケさん、英語話せるの?
全員   (シイタケに注目)
シイタケ おひけえなすって!ここは裾野館と申すちんけな下宿屋でごぜえやす。あっしも今来たばかりなんですがね。お見うけしたところ、貴殿、ホームステイとやらで来られたご様子。まずは、それがしどもにご要件をお聞かせ頂くのが話の筋というもの。しかれば、貴殿の身の上、あ、包み隠さず、あ、名乗っていただきやしょうか……。かしこ。
全員   (こける)
マツタケ そんなゴッテゴテの日本語……!
外人   オオ!ヨクワカリマス!
全員   (こける)
マツタケ 日本語話せるなら最初から言ってよ。さあ、上がって下さい。
シメジ  お姉ちゃん、いいの?
マツタケ シメジ、あんたも人が悪いわね。こんないい男が来るなら、早く言えばいいのに。
外人   スイマセン、道ヲ聞キタイノデスガ……。ワタシ、松本サンノオ宅ニ、ホームステイスルノデスガ、知ッテマスカ?
マツタケ 松本さんちだったら、このすぐ隣だけど。
外人   アリガトウ。(マツタケに投げキッスをして出ていく)
マツタケ (呆然)シメジ、見た?見た?あの外人さん、私に気があるわ。どうしましょう……。
シメジ  松本さんのお宅も応募したのね。
マツタケ シメジ、うちにはどういう人が来るの?うわあ、楽しみだなあ……。
シメジ  さっきまでは、あんなに反対していたのに……。きっと、ディカ・プリオみたいな人がくるわよ。
マツタケ ディカ・プリオ……。ぐふっ、男なんて……、6年振りか……。
シメジ  じゃあ、お姉ちゃんもホームステイの受け入れに賛成ね。
マツタケ 賛成、賛成、大賛成!
舞台   上半身裸で槍を持った原始人が、ピョンピヨンはねながら登場し、裾野館の玄関に入り込む〜全員注目。
パパイヤ オセワニナリマス!
全員   (こける)
舞台   暗転。
 
> ここは下宿屋裾野館『こんな世間に誰がした!?〜の巻』 第2場面〜ヤクザと裾野館の住人
ここは下宿屋裾野館『こんな世間に誰がした!?〜の巻』 第2場面〜ヤクザと裾野館の住人
< 登場人物 >

裾野シメジ………快活で明るい女の子。しかし、突拍子もないことをしでかす。
裾野マツタケ……裾野館の大家で未亡人。気性のはっきりした性格。
山田ワラビ………裾野館の住人。大学10年生。
小沢シイタケ(山手タケオ)………わけあって裾野館に居候することになった怪しいオカマ。
松山ツクシ………とんでる女子高生ママ。経済苦で裾野館に住むことになった。
松山コゴミ………ツクシの子ども。小学校1年生。
ブナじいさん……裾野館の近所に住んでいるボケ老人。
パパイヤ…………裾野館にホームステイすることになったインドネシア人。
親分………………バナナ銀行の頭取に雇われた暴力団。
子分………………親分の子分。
外人

《演劇活動をされている方へ》
この脚本はご自由にお使い下さい。※ご使用の際、お知らせいただければなお嬉しいです。


第2場面〜ヤクザと裾野館の住人


・・シーン6・・

舞台   黒服でサングラスをした二人組みのヤクザ、上手より慌てた様子で現われる。親分が先に中央に来て、辺りをキョロキョロする。疲れた様子の子分が追い付く。
親分   おい、早くしろい!
子分   へ、へい!(ぜいぜい、息をしている)
親分   このうすのろ!
子分   へい!
親分   こんなことしてる間にな、奴が遠くに行っちまったらどうすんだよ!
子分   へい!
親分   へいへい、へいへいってな、それしか言えねえのか!
子分   へい!
親分   まあ、そんなに慌てることはないか。山手板金が倒産して、山手社長は文無しだ。電車に乗る金もないはずだ。は、は、は、は……。
子分   (真似をして)は、は、は、は……。
親分   (子分をひっぱたく)真似すんな!それにしてもひでえ話じゃねえか。銀行の貸し渋りであえなく倒産する中小企業が続出してるが、あのバナナ銀行の頭取はひどいものだ。中小零細企業に金を貸し渋って、はじからつぶしているんだぜ。あの山手社長なんかかわいそうなものだ。たった五十万円が借りれなくて倒産だ。不況のせいにしちまえばそれまでだが、バナナ銀行もけちなものさ、なあ!
子分   へい!でも、あっしにゃ分かんねえんですがね、どうして、山手社長をとっ捕まえなくちゃいけないんですかい?
親分   それよ。なんでも、見ちまったらしいんだ。バナナ銀行の頭取が、ある政治家と密会して、金を受け取るところをよ。そいつがばれれば、その政治家はもちろん、頭取もろともお縄よ。やっきになって探すわけさ。
子分   それで、暴力団の僕ちゃんたちを雇ったのか。
親分   バナナ銀行っていえば、政治屋や官僚どもの天下り先だろ。奴等は公的資金を横流しして、隠居後の勤め先を確保しようとしてるんだ。全く悪い奴等が政治を動かしているんだ。世の中、良くなるわけがねえよな。
子分   へえ、親分、見掛けによらず頭がいいんですねえ。
親分   あったりめえよ!政官行の癒着は日本の社会体質の常識だ。そういうことがあるから、俺達もまんまが食えるってわけだ。悪い奴は悪い奴とくっつき、弱い奴等をいじめ、正義の人を陥れる。この社会は悪い奴が得をする仕組みになってんだよ。
子分   へえ……、僕ちゃん、暴力団でよかった。
親分   そうだろ……。そんなことより、奴を早く捕まえなければ!ん……?(入居者募集の貼り紙に気付く)月二万か……。くさいな……。
子分   (鼻をくんくんやり出す)
親分   (真似をしてくんくんやる〜だんだん地面の方をかいでいき、あるところで止まる)
子分   親分、犬のうんちです!
親分   ばかやろう!こんなところで遊んでいる暇はない。行くぞ!
子分   へい!あ、待って下さいよ!
舞台   親分、子分、下手へはける。


・・シーン7・・

舞台   奥から登場するコゴミ、それを追いかけるツクシ。
ツクシ  コゴミちゃん、お願い。ママの宿題やってよん。
コゴミ  微分積分くらいやっておいた方がいいですよ、母さま。いつもぼくにやらせていたんじゃ、いつまでたっても力がつかないと思います。ぼくは、あのパパイヤさんとお友達になりたいのです。インドネシアの文化について、聞きたいことがありますので。
ツクシ  ママ、これからお仕事なの。今日のパパはね、有名な代議士なの。だから、お小遣いもたくさん貰えるし、コゴミにもほしいもの買ってあげられるし……、
コゴミ  え、ほんとですか!ぼく、宝虫社から出ている世界大百科辞典がほしいのです。
ツクシ  いいわよ、買ってあげるしー。
コゴミ  やったあ!貸してくださいませ。(ツクシからノートと鉛筆を取り上げて、机に座る)
ツクシ  コゴミちゃん、ありがとう!
舞台   シイタケ、ヘッドホーン付のラジオのような物を持って登場。
シイタケ まんずこのおんぼろ、役に立たないんだから!(ツクシ達に気付き)あら、女子高生ママさん、いらっしゃったざますの?
ツクシ  (無視)
シイタケ ちょっとお茶でもいただこうかしら……。(お茶を注ぐ)ツクシさんだったかしら……?同じ日にここに住むようになったのも何かの縁、仲良くしましょ。(ツクシに寄る)
ツクシ  チョベリバ!
コゴミ  おじさん、なんだいその機械。
シイタケ (慌てて)お、こ、これ?これはラジオよ。(後ろに隠す)
コゴミ  かわったラジオですね。ぼくの知りうる限りでは、そういう形態のラジオは、どのメーカーからも販売されてないと思いますが。ちょっと見せていただけませんか?
シイタケ え?ああ、ダメダメ。これはまだ試作の段階ですから。そんなことより、お勉強?偉いわね、お姉さんが教えてあげるわ。お姉さん、足し算引き算は大得意だったのよ。(コゴミからノートを取り上げる。〜暫く考えるが全く分からず)勉強はやっぱり自分の力でやらなきゃね、身につかないから……。(ノートを返す)
コゴミ  これは、お母様の宿題です。
ツクシ  そう、私のー。文句ある?
シイタケ あらやだ、あーた子供に宿題やらせてるの?だめよ、自分のことは自分でやらなきゃ。子供は親の姿見て育つんだから。
ツクシ  人の家庭にいちいち首つっこまないでって感じ?
シイタケ だいたいね、あんたみたいな親がいるから、日本はこんなんなっちゃたのよ。
ツクシ  私が一体何したっていうのよって感じー。高校いってるしー、働いてるしー、子育てしてるしー、誰にも迷惑かけてないしー、
シイタケ しー、しー、しー、ってね、ここはトイレじゃないのよ。その話し方やめてくれない。聞いてるだけで、胸がむかむかしてくんのよね。
ツクシ  あ、そう。人のしゃべり方までいちいちケチつけるの。チョームカツク。だいたい、今の社会を作ったのは、今の大人たちだしー、あんた達の責任って感じー。あんた達は、嘘をついてはいけません、悪いことをしてはいけません、人に迷惑をかけてはいけません、といいながら、自分達はその反対のことばかりしているしー。私たちが反発しようとするものなら、規則、規則で押さえつけようとするしー。私の人生どうしてくれんのよーって感じ。でも、私にはコゴミちゃんがいるしー。そんなことより、おじさんオカマでしょ。化粧へたー。少し肌の手入れをしたほうがいいって感じー。
シイタケ ひどい、ひどい……。私だってね、やりたくてオカマやってんじゃないわよ。世の中不況で、私の経営していた板金会社も倒産したわ。機械の止まった工場で、私は一人作業イスに座っていた……。ふと足元を見ると、新聞くらいの大きさの板金が落ちていたわ。どういうわけか、私はそれを拾い上げて、近くにあった紙やすりで、わけもなく磨きはじめたの……。ゴシ、ゴシ、ゴシ……。どれくらいこすっていただろう、ゴシ、ゴシ、ゴシって……。気が付くと、日はもう沈んでいたわ。突然、工場の明かりがパッとついたかと思うと、ドア越しに大きな荷物を持った妻が立っていた。妻は一言「長い間お世話しました」―――そう言って、出ていった……。私は悔しくて悔しくて、手にした板金を握り締めたの。すると、そこに私の顔がゆがんで映っているんだよ。「ああ、俺ってこんな顔してたかなあ」って。そのうち「よく見ると美形じゃん」って思いはじめて、気が付いたらこうなっていたのよ。
ツクシ  くだらない、みたいな……。
シイタケ あんたになんかね、私の気持ち分かってたまるもんですか!
コゴミ  ちょっと二人とも、静かにしてくれませんか。
ツクシ  ごめん……。(時計をみる)いけない。もうこんな時間。仕事いかなくちゃ!コゴミ、じゃ、あとよろしくね。(ハンドバックを持って出ていく)
コゴミ  いってらっしゃーい。
シイタケ なんだ、お母さん、仕事か?
コゴミ  (宿題をやりながら)うん。男の人とデートして、お金を稼いでいるんです。今日のカモは代議士だって。
シイタケ ふうん……。世も末でございますわね……。
コゴミ  よし、できた!(ノートを閉じる)おじさん、遊びませんか!
シイタケ 姉さんよ!
コゴミ  パソコンをしましょう。ぼくの部屋に来て下さい!行きましょう!
舞台   コゴミ、シイタケの手を引っ張って、二人奥にはける。シイタケ「痛い痛い」と言いながら行く。


・・シーン8・・

舞台   シメジとパパイヤ登場。それを気にしながら、英語の本を抱えたワラビが続く。シメジとパパイヤは、机に座って日本語の勉強をはじめる。ワラビ、その隣に座り、英語の勉強をはじめる振り。
シメジ  でも、パパイヤさん、私が先生でいいの?
パパイヤ ニホンゴ、スタディー、ウレシイ。
ワラビ  ボ、ボクも、日本語にしようかな……。
シメジ  ワラビさんは、英語。それじゃ、はじめましょ。「私の名前は、パパイヤです。インドネシアから、来ました。」
パパイヤ 「ワタシノ、ナマエハ、パパイヤデス……。」
シメジ  そう。「インドネシアから、来ました。」
パパイヤ 「インドネシアカラ、チマシタ……。」
シメジ  「来ました。」
パパイヤ 「チマシタ……。」
シメジ  まあ、いいわ。じゃ、次ね……。「私は、日本が大好きです」
パパイヤ 「私ハ、日本ガダイスキデス」……。ダイスキ?
シメジ  そう、大好き。very very like、そうね……、Loveって言った方が近いかしら。
パパイヤ ラブ……。オオ、Love!(シメジに向かって改まって)私ハ、シメジ、ダイスキ!
シメジ  (拍手しながら)そう、そう、そういう使い方でいいの!
ワラビ  (煮を切らして)パパイヤくん、ちょっと馴れ馴れしいと思うんだけどな!ぼくだってシメジちゃんに、そんなこと言ったことがないんだからな!
パパイヤ (不思議そうに)ワラビ、オコル、ナゼ?
シメジ  ワラビさんが怒るのはなぜかって?パパイヤさん、いつのまにそんな日本語覚えたの?すごい、すごい!
パパイヤ 私ハ、ミナサント、ナカヨシ、ナリタイ。ダカラ、ニッポンゴ、ガンバル。
シメジ  パパイヤさん……。
ワラビ  ふん、いいんだ、いいんだ……。どうせぼくなんか知能指数ひくいもんね……。
パパイヤ ワラビ、私、トモダチー。
ワラビ  ふん、ぼくは友達になんかなりたくないよーだ!
パパイヤ ワラビ、オコル、ナゼ?カナシイ……。
シメジ  ワラビさん、パパイヤさんを悲しませちゃだめじゃない。大切なお客様なんだから……。
ワラビ  シメジちゃん……。ワラビ、悲しい……。
シメジ  続けましょ。「長野駅はどこですか?」
パパイヤ 「ナガノエキワドキョレシュ……?」
シメジ  いい、もう一回ね……。
舞台   日本語の学習続く。暗転。


・・シーン9・・

舞台   下手側、仕事帰りのツクシ登場。下手側に向かって手を振る。酔っている様子。
ツクシ  パパー、ありがとう!またねえー!ヒィック。(振り返って玄関の前にくる)ヒィック。あの、スッケベじじい……。ヒィック。(中に入る)ただいま。
シメジ  あら、ツクシさん、お帰りなさい。(時計を見る)やだ、もう、こんな時間……。寝なきゃ。パパイヤさん、今日のお勉強はここまでにしましょ。ベンキョウ、オワリ……。
パパイヤ アリガト、ゴザイマシタ。
シメジ  どういたしまして。(立ち上がって)じゃあ、私、寝るわね。おやすみなさい。(奥へ行く)
ワラビ・パパイヤ おやすみなさい。
ツクシ  (机に来て座る)はあ〜あ、ヒィック。チョー疲れた。お茶くんねえか?
ワラビ  は、はい。(お茶を入れて、ツクシに渡す)ツクシさん、酔っぱらっているんですか?
ツクシ  これが酔わずにいられるかって感じ?ヒィック。金稼ぐのも、楽じゃないねえ。今日の男なんてさ、チョー金持ちのくせに、5万しかくれないんだもん。こっちは生活するためにピーピーいってるって感じ?家賃でしょ、学費でしょ、コゴミの教育費でしょ、食費でしょ、電話代でしょ、そのほかもろもろって感じ?……。いったいこの社会、どこまで私たち弱者を苦しめれば気が済むのってゆーかー。ワラビっていったっけ……、あんたんち金持ちだって話じゃない。マツタケさんから聞いたよ。頭悪いくせに、一流中学、一流高校、一流大学と、全部金の力で入学したってゆーじゃん。チョーうらやましいね……。私もそんな金持ちの家に生まれたかったって感じ?
ワラビ  (ポケットをごそごそやって、札束をとりだす)これ、少ないけど……。(ツクシに渡す)
ツクシ  なによ、これ。
ワラビ  お金です。ツクシさん、お金に困っているようだから……。
ツクシ  ばーか!こんなもの、もらえないしー!人を馬鹿にするなって感じ?
ワラビ  でも、あげるよ。ぼく、いらないから。
ツクシ  いらないって言ってんショー!
ワラビ  いいよお……。
ツクシ  いらないしー。
(奥からシイタケ登場)
シイタケ では、私が……。(札束を持ってはける)
ツクシ  まったくあのオカマは何を考えているんだ?(ふと、パパイヤに目を移す)
パパイヤ (ツクシに会釈)
ツクシ  あんた、パパイヤさん……だっけ?こんなチョー住みにくい日本で、よくホームステイする気になったねって感じー。
パパイヤ ニッポンゴ、ワカリマセン。
ツクシ  そっか、わからないよね……。でも、あんたの住んでる国、チョーたいへんらしいね。コゴミから聞いたよ。暴動でさ、庶民に大統領おろされたんだって?日本じゃ考えられないね。私たち貧乏人は政治家たちに差別を受けるだけ受けてさあ、あんたたちの国民はたいした勇気あるって感じー。(突然ゲロをはきそうになる)ウエッ。チョー具合悪る。私、もう、寝るわ……。ウエッ。(頭を押さえながらはける)
パパイヤ ダイジョウブ、デスカ?
ツクシ  あんた、やさしいね。おやすみ。
パパイヤ (元気に手を振りながら)オヤスミナサイ。


・・シーン10・・

舞台   下手よりやくざの二人組登場。
親分   おい、早くしろい!
子分   へ、へい!
親分   ここだ。どうも、さっきからこの下宿屋が気になってしょうがねえ。ここら一帯しらみつぶしに探しても奴の気配がない。残るはここだけだ。月二万だろ、それに敷金礼金なし。奴にとって、恰好のアジトじゃねえか。おめえもそう思うだろ!
子分   へい!
親分   ようし!続け!
子分   へい!
親分   (玄関に来て扉をドンドンとたたく)
ワラビ  あれ?こんな夜中にだれだろう……。(立ち上がって玄関に行き、扉を開ける〜やくざを見て)うわあ!
親分   じゃまするぜ!(土足で上がり込む)
子分   じゃまするぜ。
ワラビ  だれ!君たち!
親分   見ての通り、暴力団さ。つかぬことをお聞きするが、ここに山手という名の男がいるはずだが、出してもらおうか!
子分   出してもらおうか。
ワラビ  山手?だあれ、それ……。
親分   とぼけるな!俺達も余計な暴力はふるいたくない。出来る限り紳士的でいきたい。ここの住人を全員あつめろ!
子分   あつめろ。
ワラビ  は、はい。いま、大家さん呼びます。マツタケさーん!マツタケさーん!(奥へ行く)
マツタケ ねによ、こんな夜中に、騒々しいわね。(ワラビにつれられて、登場。〜やくざを見る)だれ、この人たち。
親分   おまえさんがここの責任者か。俺たちは善良な暴力団だ。ちと野暮用があってな、ここの住人、全員この場所に集合させな!
子分   させな。
マツタケ なんで?訳も話さないで、しかもこんな夜中に、非常識じゃない!
親分   聞こえねえのか!
子分   聞こえねえのか。
親分   素直に言うことを聞かねえと、
子分   聞かねえと、
親分   痛いめにあわせるぜ!(ドスをだす)
子分   あわせるぜ。
親分   (子分をひっぱたく)いちいち真似すんな!
子分   へい!
マツタケ ひえ〜っ!ちょ、ちょっと待って下さい。大至急集合させますんで!(慌てて奥に行く)全員集合!全員集合!
親分   物分かりのいい大家だ。
住人   やがて、住人達がぞろぞろと、口々に「どうしたんだよ」「何があったんだ」と言いながら登場する。(シメジ、ツクシ、コゴミ、シイタケ、なぜかブナじいさん)
親分   全員整列!!
住人   (慌てて横一列に整列する)
舞台   左から、マツタケ、シメジ、ワラビ、ツクシ、コゴミ、パパイヤ、ブナじいさん、シイタケの順。
親分   これで全員か?
マツタケ はい、全員です。
親分   ようし、住人ども!耳の穴かっぽじってよーく聞け!この中に、あの天下のバナナ銀行から莫大な借金をし、逃げ惑っている奴がいると睨んでいるんだがな。借金のため倒産した山手板金の社長をしていた男だ。名は山手タケオ、今は身をくらまして、どこへ行ったか分からない。ひょっとしたら、名前を変えて、あるいは変装して、この辺りに潜んでいる可能性が高い。この中に、山手社長がいたら、素直に名乗りなさい。バナナ銀行の頭取さんも寛大な方だ。借金の一部を免除にしてもいいそうだ。さあ、山手社長、出てこい!
住人   (お互いにザワザワ話し出す)
親分   うるさい!静かにしろ!ようし、名乗らないなら、一人一人に尋問してやるから、正直に答えるんだぞ!いいな!(まずマツタケに聞く)名前は?
マツタケ す、裾野マツタケです。私は違うわよ。だって、ここの大家だもの!嘘だと思うなら、市役所行って住民票調べてくればいいわ!こっちが、妹のシメジ。
シメジ  裾野シメジです。よろしく……。
マツタケ よろしくはいいの。わ、私たち、生まれた時からここで生活してるの。
子分   親分、この二人はちがいますぜ。
親分   女に変装してるってことも考えられる。(ワラビに移る)名前は?
ワラビ  や、山田ワラビで、で、で、です……。ぼく、十年前からここで、お世話になってる大学生です。
シメジ  ワラビさんは、違うわ。だいたい会社の社長なんてねえ。
ワラビ  ねえ……。ぼく、ばかだから……。
親分   ほんとにばかのようだな。(ツクシに移る)おまえは?
ツクシ  ヒック。松山ツクシ、こっちが息子のコゴミ。ヒック。ああ、頭いたいしー。
子分   親分、こいつ酒飲んでますぜ。
親分   あー、いーけないんだーいけないんだー。せーんせーに言ってやろー!おまえ、女子高生だろ。まだ、酒飲んじゃいけないんだぞー!怪しいな。
子分   でも、こんな若い女が山手社長なわけないですぜ。
親分   最近の整形技術は進んでいるんだ。わからんぞ。(コゴミに目を移す)こいつも怪しいな。
子分   親分、まだ、ガキですぜ。
親分   最近の科学は進んでるんだ。メルモちゃんの青いキャンディーを食べたかもしれねえ。
子分   メルモちゃんなんて古いですねえ……。
親分   (パパイヤに目を移す)お前は?
パパイヤ ワカリマセン……。
シメジ  パパイヤさん、自己紹介、自己紹介。
パパイヤ オオ、ワカリマシタ。ワタシ、インサン。1回ケイヤクデ、タカラムシニ、所属シテマス。
全員   (こける)
ワラビ  おまえ、本当のこと言ってどうするんじゃ。
親分   (ブナじいさんに)お前は?
マツタケ ブナじいさん、なんでここにいるの?
ブナじい わしゃ、近所に住んどるブナじいじゃ。宝虫にゃ役者が少なくてな。裾野館の住人を全員集めてこれだけじゃさびしいじゃろ。人数の足しにいいと思ってな。
全員   (こける)
親分   おまえら!俺達をおちょくっているのか!次っい!ぶざけたこと言ったら、ただじゃすまねえぞ!(シイタケを見て呆然とする)
シイタケ わたくし、小沢シイタケといいます。(親分の視線が気になって)な、なによ、その目……。
親分   (シイタケに近寄り、客席に身体をむけ、空を見つめる)な、なんて美しい人だろう……。
全員   (こける)
親分   (シイタケに向き)そのつぶらな瞳、知性を感じさせる口許……。おい!(子分を呼ぶ)
子分   へい!(ワイングラスを持っていく)
親分   君の美貌に乾杯……。
全員   (こける)
親分   なんというめぐり合わせ。なんという幸せ……。僕は君と出会うために生まれてきたに違いない。君は満天の星空の流星。果てしない荒野に咲く一輪の花……。君の前では、あのモナリザの微笑みさえ色あせてしまう。おい子分!例の物!
子分   へい!(バラの花束を持っていき、親分に渡す)
親分   これを……。君にはバラの花がよく似合う。どうぞ、このわたくしめの、つ、つ、つ、つ……、妻になってはもらえないでしょうか。
全員   (ドヒャー!)
親分   今日は突然うかがいまして、失礼しました。あなたがいると知っていれば、こんな無礼は謹んだものを……。また、参上つかまつります。おい、いくぞ!
子分   へい!
舞台   親分、子分、出ていく。
子分   親分、いいんですかい?山手社長をみつけなくて。
親分   あ、わすれた……。
子分   親分には言いにくいんですがね、あっしゃ、あのシイタケが一番怪しいと思うんですがね。
親分   (子分の頭をひっぱたく)ばかやろう!あんな美しいご麗人が、山手社長のわけがないだろ!俺は、あのパパイヤと名乗った男が奴だと思う。
子分   いや、絶対シイタケ……、
親分   (ひっぱたく)おまえ、どこに目をつけてんだよ!いくぞ!
子分   へ、へい!
親分   おお、なんという美しき運命……。
舞台   二人、上手にはける。


・・シーン11・・

舞台   暴力団が去った裾野館。住人達が疲れたように座っている。
ワラビ  物好きな暴力団だったねえ。
ブナじい そんなことより、いったい、誰が山手社長なの?
マツタケ そうよ。もしこの中にその山手社長がいるとしたら、私たちは借金泥棒の片棒をかついだことになるのよ。
ブナじい そいつはまずいことになるぞ。地域の信頼をなくし、もはや裾野館はおしまいじゃ!
マツタケ (ブナじいさんに気付き)なんで、ブナじいさん、ここにいるの?
ブナじい ありゃ、なんでじゃろ……?
マツタケ あなたの家はあっち!
ブナじい わしゃ、なんでこんなところにおるんじゃ?ありゃ?晩飯くったっけなあ?
(立ち上がって、ぼーっとして出ていく)
マツタケ だめだ、重症だ。
シメジ  でも、本当にこの中に山手社長がいるの?
シイタケ わ、私じゃないざますよ!(ツクシをみる)
ツクシ  わ、わたしー!?チョムカー!
シイタケ な、なんざます、そのチョムカって?
コゴミ  ちょームカツクの略でございます。
ツクシ・シイタケ (ワラビをみる)
ワラビ  え、ええ?ぼ、ぼく!?ぼくかなあ……?いやいやいや、違う違う。(パパイヤを見る)
パパイヤ (ただ、ニコニコ笑っている)
シメジ  パパイヤさんじゃないわ!ひどい!みんな……。
ツクシ  あ〜あ。ちょー疲れた。なんだかとんでもない下宿屋に入っちゃったわね。つきあってられないって感じー。コゴミ、もう、寝しょ。(立ち上がって奥に行ってしまう)
コゴミ  みなさん、おやすみなさい。(ツクシにつづく)
シイタケ によ、ツクシさん、あなた逃げるの?ああ、ばかばかし!この中に借金泥棒がいるなんて!私ももう、寝ましょ!(奥へ行く)なんだか、いやな雰囲気だわ!
ワラビ  ぼ、ぼくも、寝よ……。(逃げるように奥へ行く)
シメジ  パパイヤさんも、もう遅いから寝ましょ。Good night.
パパイヤ オオ、ハイ、オヤスミナサイ……。(立ち上がって奥へいく)
マツタケ おやすみ……。(ため息)
シメジ  お姉ちゃん、どうしよう……。みんなの心がバラバラ……。
マツタケ シメジ、覚えているかな?私たちがまだ子供だったころ……。この裾野館がまだ旅館をやっていて、お父さんとお母さんが切り盛りの全てをやってたころ。ある日、文無しのお客さんがうちに来て、一晩泊めてくれって……。
シメジ  覚えてる。ガリガリに痩せた男の人だった。
マツタケ お父さんは、その人がお金持ってないのを知ってて、最高のもてなしをしてた。その男の人が涙を流しながらお料理を食べていたの、私、今でも覚えてる。
シメジ  うれしかったのね……。
マツタケ あの人が去ったあと、お父さんが言ってた……。「所詮、人間関係なんて、他人を信じてあげることからはじまるんだ。あの男が何者か、わしには分からん。でも嬉しそうだったじゃないか。わしは旅館をやってて、それだけで満足だ」って……。
シメジ  お姉ちゃん、やるわ、私……。
マツタケ やるって、おまえ……。
シメジ  このままじゃ、裾野館は不審が不審を呼んで、みんな、去っていくわ……。もし、山手社長がここにいるなら、その人をつきとめて、話しをしてみる。
マツタケ まったく……。言い出したら、聞かない娘だからねえ……。勝手にしな。
シメジ  ようし!(体操をはじめる〜手裏剣を投げるしぐさ)
舞台   マツタケ、シメジの動きを気にもかけないでお茶を飲む。〜暗転。
 
> ここは下宿屋裾野館『こんな世間に誰がした!?〜の巻』 第3場面〜不況社会と小さな革命
ここは下宿屋裾野館『こんな世間に誰がした!?〜の巻』 第3場面〜不況社会と小さな革命
< 登場人物 >

裾野シメジ………快活で明るい女の子。しかし、突拍子もないことをしでかす。
裾野マツタケ……裾野館の大家で未亡人。気性のはっきりした性格。
山田ワラビ………裾野館の住人。大学10年生。
小沢シイタケ(山手タケオ)………わけあって裾野館に居候することになった怪しいオカマ。
松山ツクシ………とんでる女子高生ママ。経済苦で裾野館に住むことになった。
松山コゴミ………ツクシの子ども。小学校1年生。
ブナじいさん……裾野館の近所に住んでいるボケ老人。
パパイヤ…………裾野館にホームステイすることになったインドネシア人。
親分………………バナナ銀行の頭取に雇われた暴力団。
子分………………親分の子分。
外人

《演劇活動をされている方へ》
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第3場面〜不況社会と小さな革命


・・シーン12・・

舞台   夜。裾野館の奥から、ワラビ登場。
ワラビ  あーあ、ハブラシを買いに行かなくちゃ。シイタケさん、ぼくのハブラシ使ってるんだもんなあ……。あーあ……。(玄関から出て、上手に向かう)
舞台   ワラビ、舞台中央に差し掛かるころ、上手よりブナじいさん、血相を変えて登場。
ワラビ  あれ、ブナじいさん。どうしたんですか?こんな夜中に……。
ブナじい お、おおう、ワラビ君……。で、出たんじゃよ!
ワラビ  出たって、何が?お化け?
ブナじい 違う、違う、忍者じゃ、忍者!
ワラビ  忍者!?忍者って、あの猿飛佐助とか、霧隠才蔵とかの?
ブナじい そうじゃ、そうじゃ。赤い忍び装束に刀を背負ってた。
ワラビ  ブナじいさん、いくらぼくがバカだからって、そんな話し、信じるわけないじゃない。だって、忍者なんて、昔の日本にいたスパイみたいなものだろ。
ブナじい わしが電信柱で小便しとったら、前を、すうーっと通り過ぎて行ったんじゃ。赤い頭巾をかぶってな、こう(走り方を真似する)走って行ったんじゃ。
ワラビ  で、どっちにいったの?あっち?(適当に指差す)
ブナじい いや、あっちじゃ。(ワラビと違う方向を指差す)いや、まてよ?こっちじゃ。(違う方向を指差す)いや?そっちだったかな?どっちだったかな?
ワラビ  つきあってられないよ。(ブナじいさんをほっておいて上手へはける)
ブナじい ううむ……。(考え込んで)晩飯食ったっけかなあ……?(下手へはける)
舞台   裾野館奥より、シイタケがラジオのような機械を抱え、周りをキョロキョロしながら抜き足差し足で現われる。電話のところに駆け寄り、電話線のもとを抜き取り、抱えた機械のコード線を差し込み、アンテナを伸ばし、ヘッドホンをつける。
音響   ラジオの周波数を合わせる音。
シイタケ ちぇっ、感度が悪いな……。アンテナの向きを変えさせよう……。(モールス信号をうつ仕草)
音響   モールス信号の音。(ピーピーピピーピー、ピピピー……)
シイタケ 違う、もっと右……。(モールス信号を打つ)いや、行きすぎた。左……。(信号うつ)そうだ、いいぞ……。
舞台   上手よりワラビ、ビニル袋を持って戻ってくる。
ワラビ  最近いろんなハブラシが出てるんだなあ。さあて、歯みがいて寝よっと……。
舞台   下手よりブナじいさん、慌てて登場。
ブナじい ワ、ワ、ワラビくん……。出た出た出た!やっぱりいたぞ、忍者!
ワラビ  まだ言ってるぞ。
ブナじい ほんとだって!わしが捕まえようとしたら、水とんの術を使って逃げやがった。
ワラビ  うっそだうそだー!忍者なんかほんとにいたら、一度でいいから、お目にかかってみたいものだなあ……。
舞台   下手より、赤の忍び装束を着たシメジが、忍び走りで登場。辺りを見回し、地面に耳をつける。
ブナじい ほれ、あれじゃ!
ワラビ  わ、わあ!
シメジ  (ブナじいとワラビには気が付かない様子で、裾野館の壁に擦り寄り、壁に耳を当てる)
ワラビ・ブナ  (忍者に気付かれないように後をつけ、壁に耳を当てる)〜違う動作で2、3回。
ブナじい 何やつじゃ!さっきから何をしておる!
シメジ  (シメジ、驚いて刀を抜く)拙者に気付かれず後をつけるとは、おぬし、ただ者でないな!
ワラビ  な、なんだ、シメジちゃんじゃない!
シメジ  忍びの者に名などございませぬ。
ワラビ  名などないって……、シメジちゃんでしょ。
ブナじい ワラビくん、乗ってあげなきゃかわいそうじゃろ。わしにまかせとけ……。おシメ、そのいでたち、何故じゃ?
ワラビ  お、おシメ?
ブナじい 昔のおなごの名は、みんな“お”をつけたんじゃよ。おシメジじゃおかしいから、おシメじゃ。
シメジ  ブナじい、訳は聞かないで下さい。
ブナじい ゆくのか?
ワラビ  行くって、どこへ?
シメジ  はい。忍びの者として生まれた者の定めなれば……。
ワラビ  生まれてない、生まれてない……。
ブナじい あっはっはっはっは……。まだまだ子供と思っとっちゃが。よし、もう止めねえ!ゆくがよい。
シメジ  ありがとう!じっちゃま!(刀をしまって、忍び走りで上手へはける)
ワラビ  あ、シメジちゃーん!(ブナじいに)どこいったの?
ブナじい さあ?―――ありゃ?なんでわしゃ、こんなところにおるんじゃ?あれ?風呂入ったっけなあ?(下手にはける)
ワラビ  へんなじいさんだなあ……。(玄関に向かって歩き、扉を開ける)
シイタケ ま、まずい!(人の気配に気付き、慌てて機械をまとめて電話の裏にかくし、自分は近くの箪笥の陰に隠れる)
ワラビ  (シイタケには気付かず、そのまま奥に行く)
シイタケ (ワラビ、行くのを確認して)危うく見つかるところだった。(再び、機械をいじりはじめる)
舞台   そのまま。


・・シーン13・・

舞台   シメジ、奥より登場。シイタケの後方に立つ。
シメジ  何をしているの?
シイタケ (驚いてたちあがる。〜忍者を見て)お、おまえ、何者だ!バナナ銀行の回し者か!?
シメジ  バナナ銀行?
舞台   突然シメジに襲いかかるシイタケ。それをかわして手裏剣を投げるシメジ。難なくかわしたシイタケは、近くにあったハンガーで応戦。忍び刀をぬいたシメジと乱闘。『影の軍団』テーマ曲ながれる。シイタケ、シメジに渾身の力で飛び掛かる。それを身を翻してかわしたシメジは、すかさずシイタケの腕をつかんで、関節固めで決める。
シイタケ おぬし、何者だ!中国拳法免許皆伝の拙者の技をかわすとは、ただものでないな!
シメジ  シイタケさん……、あなただったのね、山手社長って。(頭巾を取って顔をみせる)
シイタケ シ、シメジさん……。な、なんで……。
シメジ  (シイタケの腕をはなす)よかったら、訳を話してくれない?何をしてたの?(観念して、ひざまずく)盗聴です。バナナ銀行のオーナーと悪徳政治家の……。
シメジ  盗聴……?なんのために。
シイタケ もう、隠していても始まりませんね。全てを話しましょう……。(立ち上がって空を見る)私の本当の名前は、山手タケオといいます。山手板金の社長をやってました。
シメジ  じゃあ、あの暴力団の人たちの話しは本当なの?
シイタケ 借金をしているのは本当です。でも、そんなことで逃げているんじゃない!借金はいずれ返します……。日本のこの平成不況は、いったいいつまで続くのだろうか……?私の会社も例外ではなかった。どう経営をやりくりしても、最高の製品を売り込んでも、この大津波のような不況の前にはなしのつぶてさ。でも、あと、五十万円さえあれば、最大の危機を乗り越えることができたかもしれないのに……。
シメジ  工面できなかったの?
シイタケ ああ、銀行の貸し渋りをうけてね。
シメジ  貸し渋り?いま話題になっている?自殺している経営者が何人もいるって……。
シイタケ ああ……。最後の砦、バナナ銀行に貸し渋りを受けた時などは、私も何度、自殺を考えたろう。あれは貸し渋りなんてものじゃない。貸さないのが前提なんだ。銀行の使命なんかあったものじゃない!原因をつきとめたら、全て、この不況を解消することができない無能な政治家たちの責任だ。ある日、私は意を決して、バナナ銀行の頭取に会いにいった。そこで、とんでもないものを見てしまったんだ。
シメジ  とんでもないものって?
シイタケ ある政治家が頭取に、ビジネスバックいっぱいに入った金を献金するところを……。そんな金があるなら、私たちに少しでも貸してくれればいいと思わないか。
シメジ  献金?なんのために?
シイタケ バナナ銀行といえば、日銀の業務の片腕を担う日本有数の銀行だ。要するに、政治家官僚の天下り先だ。私はその話しの一部始終を聞いてしまった。
シメジ  それで追われているのね。じゃあ、オカマになったのも……。
シイタケ そう、身を隠すためさ。はなっから公にできない話しだ。暴力団を雇って、私を捕まえに来たのでしょう。私は、弱い者を苦しめ、自分達はぬくぬくと甘い汁を吸う、日本の金持ち官僚どもが許せなかった。やつらの回している金は、私たち庶民の、働いて稼いだ汗と献身の染み込んだ税金じゃないか!まったく日本はどうかしている!悪政で国をどん底に落とした政治家も政治家なら、そいつらがいけないのを知ってて、泣き寝入りする国民も国民だ。銀行の貸し渋りに関して言えば、自殺者は千数百人を超えている。異常だよ。こんなに多くの人の生命がなくなっているんだ。これは私に言わせれば人災だ!人一人殺せば殺人罪だ。しかし、悪政を行って千人殺しても辞任すれば無罪放免だ!!こんなばかな話しがあるものか!
シメジ  シイタケさん……。
シイタケ 私は奴等をゆるさない。あの政治家とバナナ銀行の頭取の悪事を白昼の下にさらしてやる。しかし、証拠がなければ、また権力の力で、闇から闇へ葬られてしまうにちがいない。それで、ここに潜んで盗聴してたわけさ。
シメジ  そうだったの……。
シイタケ しかし、私がやろうとしていることは、ほんの氷山の一角を摘発するだけだろう。しかし、誰かが勇気を持ってやらなければ、けして、日本は変わらない。
シメジ  私のような、何のとりえもない普通の女の子ができる?
シイタケ もちろん。
シメジ  ありがとう。シイタケさんのことは、誰にも言わない。
シイタケ ありがとう、シメジさん……。
舞台   暗転。


・・シーン14・・

舞台   住人会議。マツタケ、立って進行をつとめる。座っているのは、ワラビ、ツクシ、コゴミ、シイタケ、パパイヤの面々。
マツタケ それじゃ、この中には山手社長はいないってことね。
シイタケ いいじゃないざますの。いないならいないで。ねえ。
ツクシ  私、学校の宿題があるしー。時間の無駄って感じー。
シイタケ そんなこと言って、あーた、またコゴミちゃんにやらすつもりでしょ。
コゴミ  いいんです、僕、勉強好きですから。それよりまた、終わったら遊びましょう。
シイタケ いいざますよ。今日はなにして遊びましょうかしら?
ツクシ  へんなこと教えないでって感じ。
マツタケ そんなことはどうだっていいの!今は裾野館存亡の危機に直面してるの!ツクシさん、あなた、本当に山手社長じゃないのね!
ツクシ  ああー、疑ってるー。だいたいこういうのってさあ、一番怪しくない人物が犯人だったってよくある話しだしー、案外、マツタケさんが山手社長だったりするかもー。
ワラビ  そうですね。推理ドラマだってそうだもんね。
マツタケ なに言ってんのよ!ああ、頭きた!全員、追い出してやる!
コゴミ  まあまあ、落ち着いてください。
マツタケ (パパイヤをみて)あなたでしょ!素直に白状しなさい!
パパイヤ ヨクワカラナイ。デモ、ミンナ、ナカワルイ。ヨクナイト、オモウ……。
舞台   シメジ、登場。上半身だけ普段着に着替え、下は忍び装束のまま。
シメジ  お姉ちゃん、なにやってるの?
マツタケ シメジ、なあにその格好。
シメジ  ごめんなさい。時間がなくて……。そんなことより、大家が住人を疑うなんてよくないわ。
住人   そうだ、そうだ。
シメジ  お姉ちゃん、ちょっと来て。(マツタケを奥側に連れてくる)
マツタケ なによ、シメジ!
シメジ  お姉ちゃん聞いて。私、山手社長が誰かつきとめたの。言わないって約束したけど、お姉ちゃんには言っとかないと……。
マツタケ シメジ、ほんと!だあれ?だれなの?
シメジ  絶対だれにも言わないって約束してくれる?
マツタケ 言わない、言わない。だれよ!
シメジ  ほんとよ。絶対よ。
マツタケ 絶対、絶対、約束!
シメジ  ほんとに約束ね……。山手社長さんは……、シイタケさん……。
マツタケ ふうん……、やっぱりね。
シメジ  お姉ちゃん、約束よ!
マツタケ (住人の方へ戻って、シイタケをどける)わかったわ、犯人……。シイタケさん。
住人   ええ!?やっぱりな。
シメジ  お姉ちゃん!
シイタケ (すくっと立ち上がり)ひどいわ!みんなして!(奥へいき、大きな荷物を持って出てくる)
シメジ  シイタケさん、どこ行くの?
シイタケ ばれてしまった以上、もう、ここにはいれないわ。みなさん、さようなら。
(玄関にむかう)
シメジ  シイタケさん、待って!……。みんな聞いて。シイタケさんは、確かに山手板金の社長さん。でもね、銀行の貸し渋りを受けて倒産してしまったの。それで、バナナ銀行の頭取にお願いに行った時、政治家と銀行がお金でつながっているのをみてしまったの!悪いのはシイタケさんじゃないわ!弱い人達をいじめるこの国の体質なの!シイタケさんは、たった一人で、権力という大きな化け物と戦っているの!
ツクシ  私の聞いた話しと違うしー。
シイタケ あれは、嘘です。シメジさん、もういいです。状況はどうあれ、みなさんを巻き込むわけにはいかないわ。
ツクシ  へえ、結構苦労してるしー。私と同じって感じ。
コゴミ  おじさん、行っちゃうのですか?
シイタケ お姉様とお呼び!残念だけどね……。
コゴミ  行っちゃやだ!お母様、このおじさんいい人だよ!だって、ぼくにいろいろなこと教えてくれたもん!板金の鋳造の仕方や加工の仕方や、会社経営のやりくりまで教えてくれたよ!ぼく、このおじさんとお友達だよ!
ツクシ  コゴミ……。
マツタケ コゴミちゃん、残念だけど、このオカマのおじさん、悪い人なの。このまま裾野館にいたら、全員バラバラになっちゃうの。その方が悲しいでしょ。
シメジ  そんなことないわ!みんなで戦いましょうよ!
シイタケ シメジさん、ありがとう。では……。(出て行こうとする)
パパイヤ PERSAHABATAN ADALAH SEGALANYA!!パパイヤ、ヨクワカラナイ。デモ、ワタシノ、オ母サン、オシエテクレタ。PERSAHABATAN ADALAH SEGALANYA!!日本ゴデ、『ユウジョウハ、全テノモノ』トイウ意味デス。ミンナ、ミンナ、トモダチ。
シメジ  パパイヤさん!
パパイヤ シイタケ、ドコイクデスカ!ワタシ、シイタケ、ダイスキ。マツタケサンモ、ダイスキ。ココニイルヒト、ゼンブ、ダイスキ。ケンカ、キライ!
シイタケ (無言のまま、出て行こうとする)
マツタケ ちょっと待って!
シメジ  お姉ちゃん!お姉ちゃんなら分かってくれると思ってた!
マツタケ 行く前に、家賃払ってちょうだい。
全員   (こける)


・・シーン15・・

舞台   二人組みのヤクザ、上手より早足で登場。
親分   今日こそ、山手社長をとっ捕まえてやる!
子分   そうですねえ、これ以上延びると、今度はぼくちゃん達の首が危ないですからねえ。
親分   だいたい目星はついている。この下宿屋に潜んでいることは分かっている。このまえ、あんなに脅しておいたんだ。誰が山手社長か調べがついているはずだ。
舞台   二人、玄関の扉を開ける。出会い頭にシイタケと向かい合わせ。
シイタケ ああ、この間の……!
住人   (立ち上がる)
親分   おお、我が愛しのご麗人。先日は失礼しました。(手の甲にキスをする)
住人   (こける)
シイタケ (住人の中に駆け戻る)
親分   さあ、事を荒立てないうちに穏便に済ませようじゃないか。見ろ。(百万円の札束を出す)ここに百万ある。山手社長がだれか教えてくれた奴に、こいつを無条件であげようじゃないか。どうだ、百万だぞ。見たことないだろ。
シメジ  あなたたち、卑怯じゃない!ここの住人がみんなお金ないの知ってて、そういうことするんでしょ!
親分   卑怯?いい響きじゃねえか。なあ!
子分   へい!
親分   さあ、この中で一番お利口な人はだれでしょう。さあ!教えてもらおうか!山手は誰だ!
マツタケ 教えたら本当にこのお金くれるの?
親分   ああ、バナナ銀行の頭取さんの特別なご配慮だ。この機会を無駄にするな。
マツタケ まあ、うれし!これで裾野館の経営の立て直しができるわ。
シメジ  お姉ちゃん、だめ!
親分   さあ、いい子だ。教えなさい。教えれば無罪放免、お前達の山手社長をかくまった罪も忘れてやろう。さあ、だれだ!言え!
舞台   (ざわざわ……)緊張。
親分   聞き分けのない羊ちゃんたちだ。てめえら!痛い目にあいてえのか!だれだ、山手社長はだれだ!(いきなりドスを抜く)
住人   (驚いて全員、倒れたり、ふせたり、壁にしがみついたりする)
親分   俺様を怒らせて、合口をぬかせてしまったようだな!
子分   怖いぞ〜。
親分   (合口を所かまわず振り回す)
住人   (全員、脅えて床に伏せる)
親分   俺様に刃物を持たせたら、右に出る奴はいねえ。なにしろ、暴力団の間じゃ、“カミソリの親分”といえば、知らない奴はいないんだ。なあ、子分よ。
子分   へ、へい!それだけじゃないんですよ。月に一回、地域の高校生を集めて、『ナイフとカッターの使い方』の講習会もやっているんです。
親分   ボランティアだぞ、ボランティア。お前たち、やったことあるか?『ナイフとカッターの使い方』の基本はな、“気に入らねえ奴は刺せ!”だ!
ワラビ  (しゃがんだまま)まあ、まあ、落ち着いて、落ち着いて……。
親分   刺される前に、山手は誰か白状して、すっきりしちまいな!
シメジ  (しゃがんだまま)そ、そ、そんな物で脅したって、言うもんですか!
ワラビ  (しゃがんだまま)け、け、警察に訴えてやる。
親分   ほほ、言わねえか。わかった。(合口をしまう)バナナ銀行の頭取さんは、政界でも顔が広い。こんなちんけな下宿屋つぶすのなんか訳もねえ。早速帰って手筈を整えようぜ!行くぞ、子分!
子分   へい!
マツタケ (しゃがんだまま)す、裾野館をつぶすって……、ま、待って……!
親分   なんだ?言う気になったか?
マツタケ 言うわ……。
親分   お利口な子羊ちゃんが、一匹いたぜ。そうだろ、そうだろ、この下宿屋がつぶれたら、明日からまんまが食えねえもんな。
シメジ  だめよ!お姉ちゃん!言っちゃだめ!!
親分   なにしてる、早く言え!
マツタケ 山手社長は……、山手社長は……、
シメジ  お姉ちゃん、だめ!
親分   言うのか、言わねえのか!はっきりしろ!
マツタケ 言うわよ!山手社長は……、
親分   ええい、じらすな!はやく言え!
マツタケ うるさいわね!いま言うわよ!山手社長はね、
シイタケ (すくっと立ち上がり)私が山手だ!
シメジ  (立ち上がり)いいえ、私が山手社長よ!
ワラビ  シメジちゃん……。(立ち上がり)ぼ、ぼくが、や、山手社長だよ!
コゴミ  (立ち上がり)いや、僕が山手社長でございます!
ツクシ  (コゴミをかくまって立ち上がり)私が山手だしー!
パパイヤ (立ち上がり)ワタシ、ヤマテシャチョウ、デス!
ブナじい (なぜか突然奥より現われ)わしが山手じゃ!
マツタケ ……。ったく、ここの住人ときたら!裾野館も今日でしまいね。本当のことを言うわ!私が正真正銘の山手社長よ!
シメジ  お姉ちゃん……。
親分   ばかやろう!人をこけにするな!ほう、(シメジに)お前が山手か!(ワラビに)お前が山手か!(ツクシに)お前が山手か!全員、山手か!上等じゃねえか!全員とっ捕まえてやる!
シメジ  いいわよ!捕まえるなら、捕まえなさいよ!
親分   おい、聞いたか?お望みどうり、捕まえちまえ!やれ!
子分   へい!(縄を持って縛りはじめる)
親分   (シイタケの前に進み、一礼)ご麗人、あなたはこんな雑魚どもとつきあっている必要はありません。この一件が片付いたら、私と結婚して、地中海辺りに新婚旅行と洒落込みましょう。
シイタケ なに言ってんのよ!私が山手社長だって言ってんでしょ!(かつらをはずす)
シメジ  シイタケさん!
親分   (唖然。目をこすって)あ、あなた……、男だったの……?ショック!!(背を向けて、よろけながら玄関に向かい、歩いて出ていく)
子分   あ、親分!待って下せい!山手社長は、どうすんですかい?
親分   そっとしておいてちょーだい!私の愛した人が男だったのよ!私にだって、心の整理が必要なの!(上手へ走ってはける)
子分   あ、親分、待ってくだせーい!(追いかけていく)
ワラビ  なんか、変な転開になってきたぞ……。
シメジ  シイタケさん、一刻も早く盗聴を成功させて、警察でも、マスコミでも、真実を訴えにいかなきゃ!
シイタケ ありがとう、シメジさん。
ブナじい よかった、よかった……。
ワラビ  ところでブナじいさん、なんでここにいるの?じいさんの家はあっちでしょ。
ブナじい あれ?なんでじゃ?おかしいな……?(帰っていく)幸子さん、わしのネマキしらんかい?幸子さーん……。
ワラビ  変なじいさんだなあ……。
ツクシ  つかれたしー。行くわよ、コゴミ。(はける)
コゴミ  おじさん、よかったね!(ツクシに続く)
舞台   一人一人はけていく。


・・シーン16・・

舞台   下手よりブナじいさん、『そして、数日後』と書いたプラカードを持って、ゆっくり、上手へはける。パパイヤ、荷物を持って奥より登場。続いて、シメジとワラビ登場。
シメジ  パパイヤさん、ありがとう。とっても楽しかった。こんど、インドネシアに必ず遊びにいくから……。
パパイヤ オセワニナリマシタ。
ワラビ  パパイヤくん、僕も手紙書くからね。返事ちょうだいね。
パパイヤ ワカリマシタ。エイゴデスカ?
ワラビ  英語はもうやめた。パパイヤくん、日本語上手になったから、日本語で書くよ。
パパイヤ ワラビ、ワタシ、トモダチ。
ワラビ  うん、友達だよ。
ワラビ・パパイヤ (握手をかわす)
シメジ  よかった、二人が仲良しになって……。
パパイヤ サヨナラ。(玄関を出ようとする)
シメジ  ああ、ちょっと、待って……。(奥を気にして)もう、お姉ちゃん、なにやってんだろう……。お姉ちゃん!パパイヤさん、行っちゃうわよ!
マツタケ (急いで出てくる)ああ、よかった。間に合った。(手荷物を渡す)
パパイヤ ナンデスカ?
マツタケ ジャパニーズ・ファーストフード。どう、私だって英語覚えたのよ。おにぎりよ。道中長いでしょ。おなか空くといけないと思って。
パパイヤ マツタケサン、アリガトウ。デワ、サヨウナラ。(出ていく)
三人   さようなら!(見送る)
パパイヤ (来たときと同じように、ピョンピョンはねながら退場)
ワラビ  (パパイヤの姿が見えなくなるのを確認して、半泣きで)いい奴だったなあ……。
(奥へはける)
舞台   シイタケ、荷物を持って奥より登場。
シイタケ あれ、パパイヤさん、もう行ってしまったの?
シメジ  たった今……。あれ?シイタケさん、その格好……?
シイタケ いろいろご迷惑をおかけしました。おかげで、証拠もできました。(テープを見せる)
シメジ  行くの?
シイタケ はい。
マツタケ さみしくなるわね。
シイタケ ええ。
マツタケ 住人のみんなにはお別れを言ったの?
シイタケ お別れなんて、そんな……。また近いうちに来るつもりなので……。しみったれたことは嫌いなんです。
マツタケ そう……。
三人   (玄関に歩いていく〜シイタケ靴をはく)
シメジ  シイタケさんの勇気、一生忘れない。
シイタケ 私も、シメジさんの優しさ、一生忘れない。
舞台   三人微笑む。上手より子分の声がする。
子分   (声のみ)親分、その姿で本当にいくんですかい?
親分   (オカマになった姿で登場)ほおっておいてちょうだい!あんたになんかね、私の気持ちが分かってたまるもんですか!(客席向いて)愛は尊いの……。
(玄関に行き、シイタケと鉢合わせ)
シイタケ うわあ!化け物!(逃げ惑う)
親分   (シイタケをつかまえて、両膝をつく)たとえ、あなたが男でもかまわない!私、暴力団をやめて、女になりました。私をどこへでも連れてって!
子分   お、親分!
シイタケ (飛び跳ねる)勘弁してよ!(逃げる)
親分   お願い、あなたの女にしてー!
住人   (なんの騒ぎかと次々に出てくる。つられて全員走りまわり、裾野館は大騒ぎ―――)


 
> ここは下宿屋裾野館『失業!?選挙で立候補!?』〜の巻
ここは下宿屋裾野館『失業!?選挙で立候補!?』〜の巻
<登場人物>

裾野シメジ
裾野マツタケ

山野ゼンマイ
中野エノキ
山川マイタケ

自由ファシスト党党首 名知須人良
自由ファシスト党立候補者 土屋モグラ
なんでも反対党立候補者 白旗ふり奈
人間党立候補者 松山コゴミ

森山霊芝
森山のびろ

刑事
塵紙交換屋
青竹売り
石焼きいも屋
豆腐屋
金魚屋

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【第1場面】

シーン1

舞台  暗転。下手側、刑事にスポット。刑事が逮捕状を客席に掲げ、立っている。
刑事  人間党党首、森山霊芝だな!
霊芝  (上手側でスポットあたる)そうだが。
刑事  収賄容疑で逮捕状が出ている!署まで同行願おう!(霊芝の腕をつかむ)
霊芝  どういうことだね?
刑事  問答無用!
のびろ  (下手より登場)父さん!!
霊芝  心配するな。無実は必ず証明される。
刑事  来い!
霊芝  後の事は頼んだよ。
のびろ  父さん!!……、父さん……。
舞台  霊芝を連れて刑事が上手へはける。それを追いかけるのびろ。上手側で膝を落とす。
名知須  (下手より登場)ふぁはははははは……・!これで人間党もおしまいじゃ。これからは、我が自由ファシスト党の天下じゃ。ふぁはははは!うーれしーなー。
舞台  暗転。


シーン2

舞台  裾野館。
シメジ  (買い物かごをぶらさげ、鼻歌を歌いながら上手より登場)今日はみんなで、おなべでもしましょ。消費税5%還元セールで、得しちゃった。
舞台  遠くから選挙の遊説の声が聞こえる。「こちらは自由ファシスト党の遊説カーでございます。土屋モグラ、土屋モグラをどうぞよろしくお願いいたします。皆様とともに、住みやすい都市作りを実現いたして参ります。土屋モグラでございます。土屋モグラ……」
シメジ  もう、うるさいんだから!選挙はいいけど、もっと静かに選挙運動をしてもらいたいわ!(裾野館に入って、そのまま奥に入る)今日はおなべ……。
舞台  “自由ファシスト党”候補土屋モグラ、候補者のたすきをかけ、拡声器を口に当て、下手から上手に歩いていく。
モグラ  ええ……、こちらは土屋モグラ、土屋モグラでございます。皆様の熱い支援をいただき、食べる物も食べず、飲む物も飲まず全力で戦っております。(おむすびを食べ、ジュースを飲む)我が国の与党として、時代をリードしてきた自由ファシスト党より立候補いたしました土屋モグラ、土屋モグラをどうぞよろしくお願いします。(はける)
マツタケ  (部屋より登場)あああ!全くうるさいわね!ゆっくり知恵の輪もできないじゃない!(机に座り知恵の輪をはじめる)シメジ、ねえシメジ!
シメジ  (奥より出てくる)なあに、お姉ちゃん。
マツタケ  シメジ、悪いんだけどさ、耳栓買ってきてちょうだい。うるさくて集中できない!
シメジ  ええ、いま買い物から帰ってきたところなのに!早く言ってよ!
ゼンマイ  (上手よりスーツ姿で登場〜中央で)ちぇ、就職活動も楽じゃないな。これで三十社目だぜ。あーあ、来年度も就職浪人か……。(裾野館に入る)ただいま。
シメジ  あら、ゼンマイさん、おかえりなさい。どうだった?勝建設株式会社の面接の方。
ゼンマイ  (Vサインで)あっはっはっはっは……。
シメジ  採用してもらったの!?おめでとう!
ゼンマイ  (急に泣き出す)
シメジ  だめだったの?気をおとさないで!
ゼンマイ  (急に明るく)なあに、人生明るく生きなきゃね!ルンルン……!たーのしーいなあ!
シメジ  なんだ、心配しちゃうじゃない!合格したのね!おめでとう!
ゼンマイ  (泣き出す)
シメジ  ええ、やっぱりだめだったの?元気だして!
ゼンマイ  おれは元気だぜ。あっはっはっはっは……!
シメジ  よかった!おめでとう、ゼンマイさん!
ゼンマイ  (泣き出す)
マツタケ  (ハリセン)泣くか笑うかどっちかにしろ!
ゼンマイ  あのハゲ社長のやつ……。面接中におれがちょっと居眠りをしただけで、「君は働く気があるのかい?」だって。働く気があるから面接に来ているんじゃないか。なあ。
シメジ  ええ、面接中に居眠りしたの?信じらんない。
ゼンマイ  どこかに俺のような優秀な人材を採用してくれるとこ、ないかな?シメジちゃん、紹介してくれない……?
シメジ  そうね、ゼンマイさんみたいに、無気力、無責任、無能力の三拍子そろっている人って、なかなかいないものね。
ゼンマイ  そうそう、おれのように無気力、無責任、無能力の三拍子……、それって、悪いことじゃん……。シメジちゃん、ひどい……。そうか、俺って……、そうなんだよな……。
シメジ  冗談、冗談!元気だして!世の中広いんだし、ゼンマイさんにぴったりの就職口、ぜったいみつかるわ!
ゼンマイ  大不況で失業率も過去最低の世の中で、そんなもんあるわけないよ。
舞台  下手より“なんでも反対党”立候補者白旗ふり奈、たすきをかけ、拡声器を持って登場。
白旗  ええ、私、なんでも反対党候補の白旗ふり奈です。目下花婿募集中。どっかにいい男いないかしら……。いけない、今私は遊説をしているんだった。(上手に歩き出す)消費税、反対!商品券、反対!金融処理法案、反対!介護保険、反対!児童福祉、反対!今の政治、反対!なんでもかんでも反対!政治は分かりやすさが大事です!反対!反対!反対!どう?わかりやすいでしょ。なんでも反対党白旗ふり奈、よろしくお願いします。(下手にはける)
ゼンマイ  な、なんだい、今の?
シメジ  さっきからうるさいのよ。もうじき選挙でしょ。選挙はいいんだけど、遊説がうるさくて。
モグラ  (下手より登場)土屋モグラ、土屋モグラでございます。どうぞよろしくお願いします。土屋モグラ、土屋モグラでございます。(上手にはける)
マツタケ  ったくうるさいわね!今度きたらおっぱらってやる!
シメジ  お姉ちゃん、気持ちはわかるけど、怒りすぎて、また塀を倒さないでちょうだい。
マツタケ  わかってるわよ!
声  毎度お騒がせしております。
マツタケ  来た!(立ち上がって外に出る)あんたたちも来なさい!
塵紙交換  毎度お騒がせしております。こちらは塵紙交換でございます。(こけ)古新聞古雑誌、ございましたらお早めにお知らせください。こちらは塵紙交換でございます。(はける)
マツタケ  まったく紛らわしいんだから!(家に入る)
声  毎度お騒がせしております。
マツタケ  ようし、今度こそ!(出る)
青竹売り  サーオヤー、あ、青竹!(こけ)物干し竿のご用はございませんか?三メートル三百円、四メートルで四百円、五メートルなら五百円。では十メートルではいくらでしょう?(こけ)答えは、“そんな長い物干し竿は必要ない”でした。(こけ)サーオヤー、あ、青竹!物干し竿のご用は……(はける)
マツタケ  なによ、今の!紛らわしい!
石焼き芋  いーしやーきーいもー、おいも!あっつあつー!(はける)
豆腐屋  ピープー!
金魚屋  (豆腐屋に続いて)きんぎょーえ、金魚屋!
マツタケ  もう、勝手にやってなさい!(家に入る)
白旗  白旗ふり奈、白旗ふり奈です。ただいま恋人募集中でございます。なんでも反対党候補白旗ふり奈です。よろしく、よろしく、よろしく。そこの私好みのお兄さん、白旗ふり奈でございます。うっふーん。(はける)
モグラ  土屋モグラ、土屋モグラでございます。自由ファシスト党より立候補した土屋モグラでございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ご声援ありがとうございます。全力でがんばってまいります。土屋モグラをよろしくお願いします。(はける)
マツタケ  全く!!(外に出る)うるさーい!静かにしろー!!(看板がかしがる)ああ、すっきりした。(家に入る)
シメジ  この一週間はあきらめたほうがよさそうね。
ゼンマイ  あ、そうだ!俺にぴったりの仕事があった!
マツタケ  あるわけないじゃない。ぐうたらで、ばかで、無気力、無責任、おまけに家賃滞納の常習犯ときてる。
ゼンマイ  貧乏は関係ないだろ!それがあるんだよ、俺にぴったりの仕事。ばかでもぐうたらでも無責任でもできる、俺のためにあるような仕事。息だけしてればいいの。
マツタケ  息してればって……、ああ、相手にしてるだけで疲れる。
シメジ  なになに?ゼンマイさん教えて?
ゼンマイ  知りたい?
シメジ  知りたい、知りたい!
ゼンマイ  そう……?(もったいぶって)あのさ、政治家だよ、政治家。
マツタケ・シメジ  さて……。(立ち去ろうとする)
ゼンマイ  待ってよ。話しを聞いてよ。
マツタケ  あのね、政治家ってここがよくないとなれないの!(頭を指差す)
ゼンマイ  政治家なんて案外頭悪いんだよ。だって、何か問題があると「記憶にございません」ってさ。俺も記憶力悪いんだ。ね、同じだろ。それに、仕事中に居眠りしたっていいし、いざとなったら嘘つけばいいんだもん。驚くほど俺にぴったりんこ!
シメジ  言われてみればそうね……。どう?立候補してみる?応援するわ!
ゼンマイ  そうでしょ!ようし!やるぞ!
マツタケ  ばかね!立候補するにもお金がかかるのよ。
ゼンマイ  え!?金がいるのか?
マツタケ  あたりまえじゃない。そんなお金があるんだったら、たまってる家賃払ってちょうだい!
ゼンマイ  (無言で立ち上がる)そうか、金がいるのか……。(ため息をはいて奥へはける)
シメジ  ゼンマイさん……。大丈夫かな?


シーン3

舞台  今にも倒れそうな森山のびろ、杖をつきながら下手より登場。
のびろ  ああ……、この不況でどこも僕を雇ってくれない……。職安に行っても求人票は一枚もないし……、もう一週間も、何も食べてないもんなあ……。早く職をみつけなければ、僕は死んでしまう……。どこかに職はないか!おおい、職よ!職!うっ!(倒れる)
マツタケ  (知恵の輪やりながら)あ、そうそう、シメジ、耳栓買ってきて。
シメジ  なんだ、覚えていたの?はーい……。(家を出る。〜のびろを発見)ど、どうしたの!?(のびろに駆け寄る)しっかりして!
のびろ  (やっと上半身を起こす)う、うう……。
シメジ  どうしたの?おなかが空いてるの?
のびろ  しゅ、しゅ、しゅ……、
シメジ  なあに……?食料……?それとも、お水……?
のびろ  就職……。(倒れる)
シメジ  しっかりして!(のびろの上半身を起こす)お姉ちゃん!たいへん!人が倒れてる!
マツタケ  (知恵の輪をやりながら外にでる)なによ、騒がしいわね!(知恵の輪が解ける)解けた!!
シメジ  え、ほんと!?(のびろを突き放し、マツタケの方による)うそっ!見せて、見せて!
マツタケ  ほら!ね、精神一到なにごとかならざらんね!
シメジ  すごい、お姉ちゃん!
のびろ  う、ううっ……。
マツタケ  それよりどうしたのよ、大声出して。
シメジ  あ、そうそう。たいへんなのよ!人が倒れているの!あそこ!(指差す)
マツタケ  まあ、めずらしい!行き倒れ?(のびろに駆け寄り手を持つ)とりあえずシメジ、そっち持って。家に入れましょう。
シメジ  (足を持つ)よいしょ。おもい……。
石焼芋屋  (突然上手に現れる)いーしやーきいもー、おいも!ほっかほかー!おいしいよ!
舞台  二人、のびろを落とす。
シメジ  ああ、おいも屋さーん!焼きいも二つちょーだい!(駆け寄る)
石焼芋屋  あいよ!毎日寒いね!二つね!
マツタケ  ああ、シメジ、四っつにしてもらって。私、三っつ食べるから。
のびろ  (起き上がって)おいっ!(気が付くまで言う)おいっ、おいっ……。
シメジ  (のびろに気付き)あ、あー、ごめん……。
のびろ  もう、自分で入った方が早いよ!(裾野館に入る)
シメジ  ああ、ちょっと待って!
マツタケ  ああ、シメジ……、(お金を払い、焼きいもを抱えて家に入っていく)
舞台  暗転


シーン4

舞台  裾野館中央の机上には食べ終えた食器が並び、周りにはシメジ、マツタケ、のびろが座っている。
のびろ  ああ、食った食った。(腹をたたく)
シメジ  相当おなかがすいていたのね。
のびろ  いやあ、助かりました。(ゲップ)あと一日なにも食わなかったら死ぬところだった。ところで、ここは?
シメジ  裾野館という下宿屋よ。
のびろ  下宿屋?
シメジ  この人がここの大家のマツタケ。で、私が妹のシメジ。
マツタケ  ところであなた、どうしたの?いまどき行き倒れなんて流行らないわよ。
のびろ  ああ、ぼく、森山のびろといいます。仕事を探しているんですけど、どこへ行っても不況、不況、不況。どこもぼくを雇ってくれないんです。住む所も失い、この三カ月間、あちこち歩きまわっているうちに、ついに力尽きて倒れてしまいました。お恥ずかしい……。
シメジ  かわいそう……。失業してるんだ。それまでは何をやっていたの?
のびろ  保育園関係の仕事を……。その前は臥竜公園の整備。その前は本屋さん。その前は教育機材のセールス。かれこれ三十回くらい職を変えてます。これ履歴書です。(ポケットから出す)結局、いろんなところを転々としているから、信用がなくなっちゃうんですね。
シメジ  何か訳がありそうね……。
のびろ  訳なんてありませんよ。ただ、天職に出会えないだけで。
マツタケ  へー、なるほど……。(履歴書を眺めながら)保育園で何をやっていたの?
のびろ  雑用です、雑用。戸を直したり、窓ガラスをはりかえたり、水道をいじったり、時には園児のもらしたうんちをかたずけたり……。
マツタケ  それじゃ、棚を作ったりとかもできる?
のびろ  おやすいご用。
マツタケ  塀の修理は?
のびろ  できますとも。
シメジ  ええ?じゃあ、私の部屋の壁のはりかえは?
のびろ  材料さえあれば、なんでもやっちゃいますよ!
シメジ  お姉ちゃん!この裾野館を修理してもらいましょうよ!少しは住みやすくなるわよ。
マツタケ  そうね。うちの住人より、よっぽど役に立ちそうね!どう?ここで働かない?
のびろ  ええ……?い、いいんですか?
マツタケ  もっともうちも不景気だから、そんなにいい条件は出せないけどね。
のびろ  もう条件なんかどうでもいい。なんでもやらせていただきます。
シメジ  お姉ちゃん、人使いあらいわよ。
マツタケ  余計なことは言わないの!
シメジ  これで奇麗なお部屋に住めるわ!うれしい!
マツタケ  こういうのはどうかしら?時給百円。
のびろ  (立ち上がり)帰らせていただきます。
マツタケ  話しは最後まで聞く!そのかわり、朝、昼、晩の三食付き。住み込みということで、空き部屋を一つ貸すから自由に使うといいわ。更に年頃の美人姉妹二人つけちゃおう!
のびろ  え、どこどこ?
マツタケ・シメジ  (自分を指差す)
のびろ  さてと……。(帰ろうとする)
マツタケ  そう、残念ね……。
シメジ  食べる物だけ食べて、用がなくなれば立ち去る……。世の中の男なんて、みんなそんなものなのよね……。
マツタケ  そうそう。それに、この不況でどこ行ったって仕事なんかあるわけないのに……。ばかね。
シメジ  そういえば昨日テレビでやってた。職を失い首つり自殺だって……。かわいそうに。
マツタケ  この間、うちの仕事ことわった大工さん、屋根から落ちて半身不随だって。かわいそう。
シメジ  うそー。そういえばさ、ここが旅館やっていた時、食い逃げした人がいたじゃない。あの後すぐ……、わあ、思い出しただけで……、うう……。
マツタケ  シ、シメジ、やめて、その話し……。
のびろ  な、なに……?どうしたの?気になるじゃない……。
マツタケ・シメジ  (のびろをじっとみつめ)かわいそうに……。
のびろ  な、なに……?
マツタケ  いいのよ、時給百円なんて安い給料で働かなくたって。あなたなら、だ、大丈夫よ……。(のびろから目をそらす)大丈夫……。グスッ!(泣く)
シメジ  お姉ちゃん、そんなのかわいそう!かわいそうすぎる!(泣く)
のびろ  あ、あの……、は、働かせてください……。
マツタケ・シメジ  (泣きやむ)
マツタケ  い、今、何て言ったの?
のびろ  働かせてください。
マツタケ  ほんと?
シメジ  お姉ちゃん、よかった!
マツタケ  (態度翻って)じゃ、早速だけど耳栓買ってきてちょうだい。あ、それから帰ったら洗濯物取り込んで、お風呂掃除やってちょうだい。
のびろ  ええ!?は、はい……。(首をかしげながら外に出ていく)へんなところに来ちゃったなあ……。
舞台  暗転。


【第2場面】

シーン5

舞台  のびろ、部屋の掃除をしている。そこへパソコンを抱えた学生服姿のエノキ登場。エノキ、電話のコードを抜いてパソコンをつなぎ、机に座ってEメールをのぞきはじめる。それが気になるのびろ、掃除をしながらのぞきこむ。
エノキ  (のびろの動きを気にしながら)誰?おじさん。
のびろ  ぼ、僕?僕ねえ、今日からここで住み込みで働くことになった、森山のびろっていいます。よろしく。君は?
エノキ  中野エノキ。
のびろ  エノキ君か……。中学生だね。(パソコンをのぞきこむ)何をやってんだい?
エノキ  Eメール。
のびろ  ああ、Eメールか。(内容を読む)なになに……、「アントニオ:今日の数学の時間、内海先公のチャック全開なの見た?笑っちゃうよな」へえ、エノキ君はアントニオという名前でやってるんだ。「土方歳三:見た、見た。おかしかったわよねー、うふっ」へー、それで、土方っていう女の人と会話してるんだね。
エノキ  (のびろをひっぱたく)誰とEメールしようといいじゃないか!人のプライバシーをのぞかないで!あっち行って!
のびろ  ああ、怖い……。中学生は難しいなあ。思春期だから仕方ないか。
舞台  下手よりマイタケ、セーラー服姿で登場。頭にでかいひまわりの飾りをつけている。携帯電話と電子メール器機を持って玄関に入ってくる。無言のままカバンをおろし机に座る。エノキとマイタケ、隣り合わせの状態。
のびろ  (マイタケに)ここの住人の人?おかえりなさい。
マイタケ  (無視して電子メールをやっている)
のびろ  (マイタケのカバンをのぞきこみ)野ノ原中学一年五組、山川マイタケ……?マイタケちゃんていうんだ。何をしているの?
マイタケ  (のびろをにらみ、カバンを机の下に隠す)
のびろ  何だよ!近ごろの中学生は愛想がわるいなあ。(掃除を続ける)
舞台  のびろは掃除。エノキはパソコン。マイタケは電子メール。暫くしてエノキが「クスッ」と笑う。気になるのびろ。続いてマイタケが「ウフッ」と笑う。更に気になるのびろ。やがてエノキが笑い出す。のびろ、我慢できずにパソコンをのぞきこむ。
のびろ  「土方歳三:もうすぐ着くわ。ほら」「アントニオ:ああ、ほんとだ。おかえり」変な会話だなあ。「土方:だあれ?このださいおじさん」「アントニオ:今日からここで住み込みで働くらしいよ」あれえ?どっかで見た場面……。「土方:やだあ私、こんな匂いそうなおじさんと一緒に生活するの」「アントニオ:仕方ないよ、さっきから棚を作ったり、壁を修復したりしてたから、きっと大家さんは、少しずつこのオンボロ下宿屋を直していくつもりだよ」「土方:やだあ!このおじさん、今、私のカバンのぞきこんでる!ああ、私の名前をつぶやいた!いやらしい声!」あれえ?へんだぞ?「アントニオ:相手にしない方がいいよ」「土方:やだやだ、いま、あなたの後ろで、あなたのパソコンのぞきこんでるわよ!どすけべオジンね!名前はなんていうの?」「アントニオ:確か、森山のびろっていったかな」―――、僕のことじゃないか!ちょっとまてよ……?この二人、こんなに近くにいるのに、Eメールで会話してるよ……。ハイテク症候群?ちょっと、もしもし、君たちね、不自然じゃないかな?口で話せばいいと思うんだけどな?
マイタケ  (のびろをにらんで、キーを打つ)
のびろ  何だよ、何て言ったんだよ?
エノキ  (のびろをたたいてパソコンを指差す)
のびろ  「だからオジンは嫌なのよね!いちいち説教してさ!アホ!」なに、アホ!?(エノキに)君も君だよ!男なんだから堂々と口で話せばいいじゃないか!なになに「オジンなんか相手にするのはお互いにやめようね」くそう!人を馬鹿にして!ちょっとまてよ?ひょっとして、君、マイタケちゃんっていったっけ、もしかして口が聞けないのか?ごめん、おじさん、悪いこと言っちゃったかな?(泣き出す)そうか、悪かったなあ……。
マイタケ  (カバンを持って立ち上がる)ばーか!(奥へ行く)
のびろ  話せるじゃないかよ!
エノキ  あーあ、せっかくの会話がだいなしだ。つまんねーな。
のびろ  ああ!ああ!もしかしてエノキ君、君、マイタケちゃんに惚れてるな?だから面と向かって話せないんだな。そうか、そうか……。
エノキ  違うよ!そんなんじゃないよ!(パソコンをしまって奥にはける)
のびろ  照れちゃって。いいな、青春時代の恋……か。僕にもあったなあ……。あ、そうだ、そんなことより、次は雨漏りの修理をしなくちゃ。ああ、忙し忙し(はける)


シーン6

舞台  下手より自由ファシスト党党首名知須人良と候補者土屋モグラ登場。
モグラ  名知須様、この辺でどうでございましょう。割と人通りが多く、手前には小人数ですが集まれるスペースがございます。
名知須  うん、街頭演説にはまあまあの場所だな。ところで、どうだ土屋、選挙状勢の方は?
モグラ  心配ございません。いまや国民は言葉を失いました。言葉どころか政治に対して批判をする能力すら失っております。それもこれも我が自由ファシスト党の先輩の方々の御尽力のおかげです。ことにその党首であられる名知須人良様のお力は絶大でございます。
名知須  そうだろ、そうだろ!大きな声では言えんがな、我が自由ファシスト党の神様とまで崇められているドイツのアドルフ・ヒットラー様はな、特に若い世代の民衆パワーを恐れていた。そこで、若者に三つの“S”を与えたんだ。なんだかわかるか?
モグラ  三つの“S”……?そりゃ分かりますよ。塩、砂糖、醤油でしょ。
名知須  そう、調味料には欠かせない三つの要素だ。って違うでしょ!三つの“S”、すなわち“スポーツ”“スクリーン”“セックス”の三つだ。快楽に走る性質をもった若い世代のバカどもは、やがてその三つの“S”に取り付かれて、政治への関心が全くなくなり、独裁政治が成立するわけだ。どうだ、今の日本と全く同じだろ。
モグラ  さすが、名知須様。今回の選挙で我々が勝てば、間違いなく自由ファシスト党の独裁体制が実現します。
名知須  そうだろ、そうだろ。我々が過半数を取れば、政治はもう思いのまんま。まず、消費税の問題だが、今、五%だろ、それを五〇%に引き上げる。
モグラ  ご、五〇%に!?で、でも、そんなことを公約で言ったら絶対落選します。
名知須  ばーか!そんなことを言ったら落ちるに決まってるじゃねえか!だから、選挙中は、消費税を当面凍結にして、税金も減らしますっていうんだ。
モグラ  それじゃあ嘘つきじゃないですか?
名知須  ばーか。政治家が嘘をつかなくてどうする!政治家の基本姿勢はな、もっともらしいことを言って国民を欺くことだ。
モグラ  なるほど、勉強になります。
名知須  消費税を五〇%に引き上げたらな、次は国のお荷物を斬り捨てるんだ。だいたいな、稼ぎもせず、税金も払わないで、国に住もうなんてあまっちょろい考えが気に入らん。老人、病人は全て無人島に島流しにしてやる。
モグラ  “姨捨山”ならぬ“姨捨島”ですね。おお、怖〜。
名知須  だが、そのまま言ったんじゃ反発を買うのは目に見えている。選挙に勝つためには、ちとここ(頭を指差す)を使わにゃならん。名付けて“レインボー介護計画”だ。ちともったいないが、無人島に奴らのための居住施設を作ってやって、“第三の人生を虹色に輝かせよう”とか、適当にキャッチフレーズを作ってだな、内実はそこで自給自足の生活をさせるんだ。どうだ、健康的だろう。
モグラ  アウシュビッツ収容所……。
名知須  我がファシスト党に『福祉』なんて言葉はなーい!!まだあるぞ。学校教育は全て、我が自由ファシスト党を賛美する教科書にすりかえる。これは現行の制度で充分可能だ。文部大臣は、そうだの、この選挙に当選したら、土屋モグラ、おまえに任せよう。
モグラ  ええ!わ、私が!?
名知須  いやか?
モグラ  いえいえ、よろこんで!
名知須  教育関連で浮く予算と、福祉予算の全ては、全部防衛費にまわす。どうだ。
モグラ  さすが、自由ファシスト党党首、名知須人良様でございます。早速、演説をはじめましょう!(演説の準備をする)
名知須  人はどのくらい集まっておる。
モグラ  (客席を見回し、その時の客の入りでセリフをアドリブで言う)えー、チョボチョボ……。
名知須  ようし、それじゃ始めよう。
モグラ  はい!(ガタガタ震え出す)
名知須  どうした。
モグラ  は、はい。私、緊張症でして、人前で話すのが大の苦手なんです。
名知須  ばか!政治家が人前で話すのが苦手でどうする!堂々と、声を張り上げて、我らの政策を主張すればいいんだ。やれ!
モグラ  は、はい!わ、わ、わ、わ、私ども、じ、じ、じ、自由ファシスト党は、み、み、み、皆様がたの、み、み、み、味方です!
名知須  そうだ、それでいい。
モグラ  も、も、もし、わ、私が勝つことができましたら、まず、消費税を五〇%に引き上げます!!
名知須  (ハリセン)本当のことを言ってどうするんじゃ!
舞台  暗転。


シーン7

舞台  のびろ、棚の修理をしている。そこへ、コゴミとシメジ登場。
シメジ  コゴミちゃん、頑張ってね!絶対応援するから……。
コゴミ  ありがとうございます。全力で戦います。(のびろに気付く)あれ?おじさん……。どこかで見たような……?
のびろ  ええ?さて、どちらさんだったかな?
コゴミ  ううん。誰だったかな?
シメジ  ああ、このおじさん、この前ここで雇った雑用の人。仲良くしてあげて。
コゴミ  松山コゴミといいます。
シメジ  コゴミちゃん、そんなことより早く行かないと。
コゴミ・シメジ  (玄関を出る)
シメジ  コゴミちゃん、本当にがんばってね!私、絶対入れるから!
コゴミ  ありがとうございます。(“松山コゴミ”と書いたたすきを掛け、拡声器を口に当て歩き出す)こちらは松山コゴミでございます。この度、日本の世の中を見るに見かねて立候補いたしました。松山コゴミ、松山コゴミをどうぞよろしくお願い申しあげます。松山コゴミ、松山コゴミでございます。(上手にはける)
のびろ  な、なんだ?今の子、まさか、選挙に立候補してるのかい?
シメジ  そうよ。人間党公認で。史上最年少候補。のびろさんもよろしくね。
のびろ  に、人間党……!?(固まる)
シメジ  のびろさん、どうかしたの?のびろさん!
のびろ  い、いや……。
シメジ  へんなのびろさん……。(部屋に戻っていく)


シーン8

舞台  突っ立ったままののびろ。上手より名知須とモグラ、のし紙のついた箱を持って登場。
モグラ  名知須さま、それにしても昨晩行った店はよかったですね。
名知須  あたりまえだろ。税金で飲む酒は最高だ!お前にも味が分かるようになったか。
モグラ  はい。(裾野館をみつけて)おお、ここでございます。裾野館というちんけな下宿屋なんですがね、それでも有権者は二、三〇人いるって話しです。
名知須  こんなお化け屋敷みたいなところに人がいるのか?まあ、大家にそいつ(のしのついた箱)を渡しておけば、半分は票になるだろう。では、わしは別の用事があるから行くが、くれぐれも選挙管理委員会と警察には見つからないようにな。
モグラ  はい。
名知須  おっといけねえ、新幹線の時間は何時だったかな?(手帳を出して見ている)
マツタケ  (奥より声のみ)のびろさーん、悪いんだけどさ、ひとっ走り行ってティッシュ買って来てちょうだい!
のびろ  (立ったまま)
マツタケ  のびろさーん!聞こえてるの?
のびろ  え?は、はい!ティッシュですね!(急いで玄関を出て、名知須とモグラの前を通り過ぎる)
名知須  (通り過ぎるのびろを見て)おや?こいつは面白いことになりそうだ。
モグラ  どうかしましたか?
名知須  (のびろに)これは奇遇ですな、森山のびろ君!
のびろ  (立ち止まって振り向く)人違いじゃないですか?
名知須  人違いなものか!ここに書いてあるわ!(のびろのズボンを下ろす。ふんどしに“森山のびろ”と書いてある)ほれ!
のびろ  なんで僕がふんどしに名前を書いているのを知ってるんだ。
名知須  この顔を見忘れたか?自由ファシスト党党首名知須人良じゃ。
のびろ  ……。
モグラ  誰ですかい?
名知須  知らんか?元人間党党首森山霊芝の息子じゃ。今、何をやっとる?
のびろ  今?今アルバイトをやってます。ここで……。
名知須  おちぶれたものよの。国民の人気取りに走って、福祉だ弱い者の味方だとほざいていた親の息子のなれの果てじゃ。惨めなもんじゃ。どうだ、いっそ我が党に鞍替えして、党本部の便所掃除専属の職員にならんか?ふぁっはっはっはっはっ……!
のびろ  それ、いいかも知れないですね……。
名知須  おい、聞いたか?ばーか!てめえなんかな、地べたに土下座して千遍頼まれたって雇ってやらねえよ!(つばを吐く)
のびろ  ……。
名知須  ふぁっはっはっはっは、ウホウホウホ。この、負け犬め!国民の前で謝れ!お前達がやってきたことが全て嘘だったと!森山霊芝は極悪人だったと!
のびろ  ……。
名知須  やーい、やーい、人騙し!(モグラに)お前も一緒にやれ。
名知須・モグラ  やーい、やーい、お前の父ちゃん人騙し!人騙し!おまわりさんに捕まって、煮ても焼いても食われない!(くりかえす)
のびろ  (振り向いて上手側に歩き出す)
名知須  おい、逃げるか!やっちまえ!(石を拾ってのびろに投げ付ける)
のびろ  (涙をこらえて走り出す)
名知須  おい、待てえ!
舞台  名知須とモグラ、のびろを追いかけてはける。


シーン9

舞台  なんでも反対党候補白旗ふり奈、裾野館に訪れ呼び鈴鳴らす。
シメジ  (登場)あら、お客さん。はーい。(玄関に行く)
白旗  私、花婿募集中、なんでも反対党の白旗ふり奈と申します。(署名用紙を持っている)
シメジ  なんでも反対党?署名だったらお断わりよ……。
白旗  なぜ気付かれたの……?違うの、もっといい話し持って来たのよ。どう、アルバイトをしない?
シメジ  アルバイト?なあに?遠慮しとくわ。
白旗  まあ、そう言わないで……。ここには住人は何人いるの?
シメジ  住人?二十六人だけど……。そんなもの聞いてどうするの?
白旗  二十六人か……。どう、一票につき五千円で働かない?二〇票集めれば十万円、悪い話しじゃないでしょ。
シメジ  十万円って、くれるの?うそっ、今不況でしょ、最近お小遣いも貰えなくて。
白旗  ええ、あげるわよ。どう、いい話しでしょ。やる?
シメジ  うんうん、やるやる!ラッキー!って、それっておもいっきし選挙違反じゃない?
白旗  私達の党も年々厳しくなってきてね、選挙違反でもしなくちゃ勝てないの。そうだ、口止め料に一万上乗せしましょう。やってくれない!(泣き出す)やってよう。お願い!
舞台  自由ファシスト党候補土屋モグラ裾野館に登場。呼び鈴鳴らす。
シメジ  はーい!どうぞ!
モグラ  私、自由ファシスト党より立候補している土屋モグラです。(白旗に気付く)おお、お主、白旗ふり奈……。
白旗  そういうあなたは、つ、土屋モグラさん……!
モグラ  ここで会ったが、こんにちは。おまえ、また陰で選挙違反してるな!
白旗  ばか言わないでちょうだい!こんなか弱い娘を捕まえといて。ひどいじゃない。(グスン)ここ、旧友の家なの。たまに会ったもんで、話し込んでいたのよ!ねえ、旧友!
シメジ  えっ?ええ……。
白旗  ほら、見て、言った通りでしょ。
モグラ  名前はなんていうんだい!
白旗  な、名前……?……。ひどい、ひどい!そんなに私をいじめないで……。そんなふうにされたら悲しくなっちゃう……。
モグラ  はっ、はっ、はっ、みろみろ、答えらんねえ!目的遂行のためには手段を選ばず。人のやった政策を、あたかも自分達がやったように平気で嘘をつくコソドロ党め!!そんなふうにいい子ぶってないで、悪党なら悪党らしくしてみろ!!
白旗  (翻って)何だっちゅうんじゃい!われ!
モグラ  正体を現した……。
白旗  少し優しく出てればつけあがりやがって!ああ!!そう言うおめえさんは何しに来たんじゃい!
モグラ  わ、私か?私はここのマツタケさんに会いに来たんだ。あの、マツタケさんはいる?
シメジ  お姉ちゃん、へんな人達が来てるわよ!
白旗  おめえさん、その手土産を渡すつもりだろ!贈賄だぞ、贈賄!
モグラ  これは以前マツタケさんから借りたんだ。それを返しに来たんだ!
白旗  中身は何だ!
モグラ  か、缶詰のつめあわせだよ。
白旗  普通、そんなもの借りる?のしまでついているぜ!
マツタケ  だあれ?お客さん?
モグラ  やあ、マツタケさん。これこのあいだお借りしたの、返しに来た。
マツタケ  あなた、誰だっけ?
白旗  あああああ!(モグラを指差す)
モグラ  やだなあ、私ですよ、私。土屋モグラ。
マツタケ  ああ、あなたね!毎日毎日遊説でうるさいの!もっと静かにやってちょうだい!
白旗  あーあ、嘘がばれちゃった。
モグラ  (白旗に)君は僕の選挙活動の邪魔をしてるのかい?選挙妨害だぞ!
白旗  選挙妨害をしているのはそっちの方でしょ!
舞台  コゴミ、戻ってくる。
コゴミ  あれ?土屋モグラさんと白旗ふり奈さんじゃないですか。どうしてここに?戸別訪問は法律で禁止されているはずですが。
白旗  人間党候補、松山コゴミ……。
コゴミ  まあ、ぼくはあまりいい法ではないと思いますがね。選挙とは本来、候補者が各家庭を訪れて、一対一の対話を通して、政策や人間性を訴えていくべきものです。それが、あなたがたのように、悪いことをする人が増えたために、法律で取り締まるようになってしまったのです。
モグラ  なにい!生意気な!
コゴミ  まあ、立ち話もなんです。あがって、お互いの政策について議論しあおうではありませんか。その方が、いい政策が見つかると思います。
モグラ  おもしろい!受けて立とう!
白旗  望むところよ!
舞台  三人の候補者、机をはさんで座る。そこにのびろが帰ってくる。
のびろ  何やってんの?ちょうどいいものを買ってきたんだ。(袋から田原宗一郎変装グッツを取り出し変装する)


シーン10

舞台  いきなり「サンデープロジェクトのテーマ」流れる。中央には田原宗一郎(物語では俵宗一郎とする)に扮したのびろ、脇にアシスタントのシメジ。それを中心にして、下手側に自由ファシスト党土屋モグラ、人間党松山コゴミ、上手側になんでも反対党白旗ふり奈、民間女性を代表してマツタケが座っている。バックには大型画面のテレビモニタが据えられ、そこには自由ファシスト党党首名知須人良が映っている。
俵  みなさんこんにちは、俵宗一郎です。いよいよ、間近に控えた選挙ですが、今日は各党を代表してお集まりいただきました。まず、自由ファシスト党の土屋モグラさん。
モグラ  よろしく。
俵  次に最年少候補、人間党の松山コゴミさん。
コゴミ  どうぞよろしくお願いします。
俵  そして、なんでも反対党の白旗ふり奈さん。
白旗  どうも、どうも。
俵  そして、今日は特別に、民間の女性を代表して裾野マツタケさんにもおいでいただいております。国民の視点で発言いただけけばと思います。
マツタケ  これ、テレビに映っているの?(Vサインをしまくる)
俵  それでは議論に移りたいと思います。
名知須  (テレビの中から)おい!誰かを忘れておらんか!
俵  ああ、失礼。自由ファシスト党党首名知須人良さんと衛生中継で結んでおります。よろしくお願いします。
名知須  おお、よろしく。
俵  それでは、まずはじめに今回の選挙における意気込みを一人一人に聞きたいと思います。まず、自ファの土屋さんから。
モグラ  そうですね、全力で戦うのみですね。自ファ党は国民のみなさんのためにあります。私たちを信用していただきたい!
俵  それでは反対党の白旗さんにいきましょうか。
白旗  国民のみなさんは今の政治をどう思われますか。私は許せない。数の力で政治を動かそうなんてとんでもないことです。今回の選挙では、是非とも“なんでも反対党”のこの私にお願いします。ちなみに恋人募集中です。
俵  では最後に人間党の松山コゴミさん。
コゴミ  はい。政治は国民の皆様のためにあるものです。
モグラ  そんなあたりまえのことを言ってどうするんだね。我々だってそんなことは百も承知だ。
マツタケ  そのあたりまえのことができていないから、あえて言ってるんじゃない!ねえ、コゴミちゃん。国民を苦しめる政策を作る政治家なんか、もう失格。さっさとやめてもらいたいわ!ねえ、コゴミちゃん。
コゴミ  はい。人間党の松山コゴミです。がんばります。
俵  さっそく議題に移ろうと思いますが、まず、このパネルをご覧下さい。
シメジ  これは戦後から現在に至るまでの景気の動向を示したものです。気になる昨年九八年の数値ですが、パネル内に書き込むことができませんでした。ちなみに表すとすると、(立ち上がって客席に赤い印をつける)ここになります。
俵  この戦後最大の不況をどう切り抜けるか、各党の政策をお話し下さい。それでは土屋さんから。
モグラ  はい。非常に深刻な問題です。自ファとしましては、まず、消費税を五〇%に……、
名知須  (テレビの中からハリセンでモグラをひっぱたく)
モグラ  ああ、いやいや……。消費税を当面凍結した上、大幅な減税を行います。
白旗  反対!
俵  白旗さん、ちょっと待って下さい。消費税凍結、本当にやりますか?
モグラ  ええ……!?あ、あのお、そのお……。
俵  党首の名知須さんに伺いましょう。名知須さん、いま土屋さんが言いました消費税凍結と大幅減税、本当にやりますか?国民の前ではっきりさせましょう!やりますか?やりませんか?
名知須  それはですね、党内で充分話し合った上でですね……。
俵  そんなことは聞いてないんです。あなたの腹を聞いているんです。
名知須  ですから、私の一存では、申し上げるわけには……。
俵  そりゃ無責任じゃないですかね。国民が一番気になっているところを……、
名知須  俵さん、俵さん、私、新幹線の時間が……。
俵  では、行く前にはっきりさせましょう。やりますか、やりませんか!
名知須  私としましてはですね、来月の党会議でですね、そのお、前向きにとらえてですね……、
俵  やる?やる?やりますね!はい、やるそうです。
白旗  反対!
コゴミ  減税には賛成ですが、消費税の凍結はいろいろ問題があると思います。
マツタケ  そうよね、凍結はありがたいけど、国会で決まって実施されるまでには時間がかかるわ。その間消費者はますますものを買わなくなる。
シメジ  不況に拍車がかかって日本は沈没!ドシャーン!あーらら。
コゴミ  そのとおり。いまは一刻の猶予もできない深刻な状況です。いま、早急に必要なことは、日本経済のお金を動かすことです。
白旗  反対!
俵  白旗さんの意見も聞きましょう。
白旗  反対。私は反対です。反対と言ったら反対!
俵  そうですか。では、不況にともなって深刻になっている失業率の問題ですが……。
白旗  私に聞いておるのか?
俵  いや、皆さんに。
モグラ  失業率の問題もこれまた深刻な問題でして、いまや日本の失業率はアメリカを上回っています。この辺も党内で話し合ったのですが、レインボー介護計画の一貫として扱ってみては、との意見が有力になっております。
俵  レインボー介護計画?と申しますと……?
モグラ  はい、老人と病人を島に流してですね、自給自足の……、
名知須  (モグラをハリセンでひっぱたく)いやいや、レインボー介護計画とは、無人島を夢の島と名付け、そこに虹色の橋をかけ、社会的弱者のための療養施設を建設する計画です。そういった島をいくつも作って失業者に提供しようというものです。
俵  ほう……。
シメジ  虹って奇麗だけど、すぐ消えちゃうのよね。
コゴミ  無駄な税金になることは明らかです。
名知須  人間党は黙っておれ!お前達は十年前に犯罪人を出しておるんだぞ!
白旗  おお、思い出した。確か、当時、人間党の党首をやっていた森山霊芝。そうだ、森山霊芝だ。
モグラ  そうだ、収賄容疑で逮捕されて、当時、大変な騒ぎだった。御飯重工の重役から、賄賂を受け取ったんだ。
白旗  そうだ、そうだ。
モグラ  そんな党の発言など聞く耳にもたん!
名知須  人間のための人間党。聞いてあきれるわ!ふん。
白旗  森山霊芝か、いたな、そんな政治家……。
モグラ  誠実が売り物とか……、大嘘付きの男。政治家の風上にも置けない……。森山霊芝。
名知須  ふ、ふ、ふ、ふ……。


シーン11

舞台  暗転。「お前の父ちゃん、人騙し。人騙し。おまわりさんに捕まって、煮ても焼いても食われない!」(童歌風)の音、小さく入る。のびろにスポット。その間、他の人はける。
のびろ  違う!冤罪だ!!……。僕の父さんは人を騙したりなんかしない!!
舞台  照明復興
コゴミ  (立っている)おじさん、どこかで見た人だと思ってました。あなた、元人間党党首森山霊芝さんの一人息子、森山のびろさんですね。
のびろ  (うなずく)
コゴミ  力を貸して下さい。人間のための政治を実現するために。
のびろ  コゴミくんっていったね。一度挫折した人間は、もう、使えないんだ……。ごめん……。協力できない……。
舞台  暗転。


【第3場面】

シーン12

舞台  シメジとマツタケ、お茶を飲みながら雑談をしている。そこへ顔にマジックでメガネを描いたゼンマイ、大喜びで上手より現れる。玄関より入り、ルンルンいいながら机に座る。
ゼンマイ  お茶ちょうだい。
シメジ  (お茶を注ぎながら)なあに?その顔。何かいいことでもあった……?もしかして!?
ゼンマイ  そのとおり!就職口が決まったぜ。
マツタケ  うそ!物好きな経営者もいるものね。
シメジ  おめでとう、ゼンマイさん!
ゼンマイ  話しを聞いたら、俺にもできそうなんだ。ただ寝てればいいんだって。
マツタケ  そんな仕事あるわけないじゃない。
シメジ  で、どこどこ。どこに就職するの?
ゼンマイ  須高動物園。
シメジ  動物園……?
ゼンマイ  最近メガネザルが死んじゃったんだってさ。で、俺が面接に行ったら、いきなりマジックでこういうふうに描かれて、ただ檻の中に入っていればいいから、明日から来てくれって!もうラッキー!
シメジ  ああ……、そ、そう……。よかったわね。
ゼンマイ  ようし、バリバリ働くぞ!(奥へはける)


シーン13

のびろ  (奥より登場。元気が無い)どうしたの?景気がよさそうだね。
シメジ  ゼンマイさんのね、就職が決まったの。
のびろ  あ、そう。よかったね。
シメジ  どうしたの?元気がないわね。
マツタケ  この前から変なのよ。風呂桶の水漏れは直してくれないし、障子の張り替えもまだ。
のびろ  あれ?そうでしたっけ?すいません。
シメジ  コゴミちゃんから聞いたわよ。のびろさんのお父さん、政治家だったんですって?
のびろ  その話しはやめて下さい。
マツタケ  もう、あんた、はっきりしないわね!一体あなた、何をしたいの!職を転々として、それでいいの?あなたの本当にやりたいものは何!
のびろ  僕の父さんは、元人間党の党首でした。それは高潔で、嘘や曲がった事が大嫌いな人間でした。僕はそんな父さんを幼少の時から見てきた。国会議員になってから、父さんは日本の政治家の無責任さを痛感するようになりました。そして、真に人間のための政治を行おうと、人間党を結成したのです。当時、父さんは口癖のように言っていました。「のびろ、権力というのは恐ろしいぞ。昔、大学のキャンパスや図書館などで、日本の将来の希望や夢の実現を語り合い、共に泣き共に笑った腹の分かりあった旧友達が、ひとたび権力を手に入れた時、国民を裏切り、私を裏切っていった。権力は魔性だ!絶対に相まみれるな!たとえ一人になっても戦うのだ!」と……。父は社会的に弱い立場の人を守る政策を次々行い、自分は質素な生活を好んでいました。そんな、父さんが収賄なんてするはずがないのです!権力の魔性に支配された、保身のみで政治を行っている自由ファシスト党の陰謀に決まっている!
シメジ  のびろさんのお父さんて、すごい人……。その後、お父さんはどうなったの?
のびろ  心臓をわずらっていまして、四畳の狭い牢獄の中で、死にました。
シメジ  そう……。
マツタケ  でも、お父さんはすごいけど、のびろさんはすごくないわ。偉大なお父さんを持った息子の生き様じゃないもの。
のびろ  僕だって戦っている!
マツタケ  うそ!!あなたは政治家になりたいはずよ。お父さんの冤罪を晴らし、自分もまた父親のような、国民に尽くせる政治家になりたいはずよ!
のびろ  僕にはできない……。
シメジ  よわ虫!!挫折がなによ!力がないからなんだっていうのよ!
マツタケ  シメジ!
シメジ  だって、お姉ちゃん……。
マツタケ  のびろさん、人はみんな人生をかけた旅路の上で、一度や二度、必ず袋小路にぶつかるものよ。私も七年前、最愛の旦那を亡くしたの。クマ吾郎っていってね、とっても優しい人だった。その時はどうしようもなく悲しくてね、一年間涙を流して暮らしたわ。
シメジ  何も食べれなくてね、げっそり痩せちゃってた。今はこんなんなっちゃたけどね。
マツタケ  うるさい。―――。死のうかとも思った。でも思い直したの。いくら嘆いたって悲しんだって、死んだ人間はもう帰ってこない。それなら今生きている人のために働こうって。私にはシメジがいる。バカだけど気のいい住人たちがいる。クマ吾郎は当時旅館をやってたこの裾野館を心から愛していた。それなら私はその意志を継いで、この裾野館を守っていくことが、クマ吾郎が生き続けていくための唯一の道だって……。だから死ぬのはやめたの。クマ吾郎を本当に殺したくなかった……。
シメジ  お姉ちゃん……。クマ吾郎兄さんはいつもここにいるわ。
マツタケ  そうよ、シメジ……。(のびろに)あなたも生きている。でも今のあなたは、生きながら死んでいるように見える。そして、あなたのお父さんも……。
のびろ  ……。
マツタケ  どうやら無駄なようね……。まあ、一度しかない人生、楽しく生きようよ。(立ち上がって部屋に行ってしまう。〜照明フェードアウト。シメジ、のびろのところのみ光残る)
シメジ  のびろさん、これでいいの?
のびろ  いいんだ……。
シメジ  私、引きずると思う。のびろさんが歳老いて、死ぬまで引きずると思う。それでもいいの?
のびろ  ……。


シーン14

舞台  のびろにスポット。
霊芝  のびろ、何をしておる!(下手袖にスポット。そこに立っている)
のびろ  父さん!
霊芝  お前がやらなければ、一体だれが私の精神を受け継ぐのか?
のびろ  僕は!僕は父さんに濡れ衣を着せ、牢獄で殺した権力者どもを絶対に許さない!
霊芝  立て!
のびろ  奴等は体裁のために政治をおこない、保身のために選挙に望む!他人のことなどまるで考えない、頭でっかちの猿だ!
霊芝  立て!
のびろ  自分のことしか考えられない動物に、どうして国民の心など理解できよう!
霊芝  立て!
シメジ  のびろさん!(照明復興)
のびろ  僕は職を転々とする中で、様々な屈辱を味わってきた。そして、それでも懸命に生き抜こうとする愚直な庶民の、苦しみとあえぎを見てきた。経営苦に陥る社長、給料が出ないと嘆く従業員。災害で家を失った一家。家族に見放された寝たきり老人。学校にも親にも相手にされない高校生。不治の病と格闘する病院の患者さん。かと思えば、お金欲しさに犯罪に走る若者達。あまりに安易に人の命を奪う殺人者……。すんなりエリートコースを進んできた、名前だけ一流の大学出のインテリに、そんな人々の苦悩を、どうして理解することができるものか!
シメジ  そうよ、政治というのは、そういった不幸をなくすため、細かいところにまで行き届く、政策を考え、打ち出すためのものじゃないの?
のびろ  だが、それを言えば、今の政治家はやっているというだろう。しかし、今の世の中、一体何が変わっているというのか!!名もなき庶民は、そういった政治屋の口車に乗せられて、苦しめられるだけ苦しめられて……!
シメジ  のびろさん……。
のびろ  そうだ、父さんは言っていた……。(暗転)
霊芝  (スポット)今、日本人の政治不信は国中に広がってしまった。「誰が政治を行っても同じ」と、諦めてしまった。手放してしまった。やがて、国民は言葉を失い、政治屋と同じ利己主義に陥ってしまうだろう……。
のびろ  いけない!もはや権力者の思う壷だ!
レイシ・のびろ  民主主義とは名ばかりの、日本はファシズムに向かっているのだ!(霊芝側スポット消え、その間に霊芝はける)
のびろ  だめだ!叫べ!叫べ!叫べ!勇気を奮い起こし、正義をこの手に取り戻すのだ!
シメジ  (照明復興)そうよ、のびろさん。私、のびろさんを信じる!
のびろ  ありがとう、シメジさん。僕はたった今、立ち上がった。真に人間のための政治を行うために結成された人間党の、父さんの精神を蘇らせた!こんな“人のため”の政党があるなんて、人は誰も信じないかもしれない!だけど、実績だけは嘘を言わない。いつか、この不況の最大の危機に、日本を救ったのは人間党だったと、庶民に感謝される日が来るまで、僕は戦おう!父さんの名にかけて!
コゴミ  (奥より登場)のびろさん!
シメジ  コゴミちゃん。
のびろ  そういうわけだ。よろしく。
コゴミ  戦いは佳境に入っています。よろしくお願いします。
のびろ  敵を味方に変えていくんだ。(コゴミと握手)
シメジ  私、絶対応援するから!
舞台  暗転。


シーン15

舞台  エノキとマイタケ、机で相変わらずメールのやり取りをしている。そこへシメジ部屋より登場。
シメジ  あら、あなたたち、またメールのやり取りしてるの?(二人を眺めながら)ふうん、思い出しちゃうな、私がまだ中学生だった頃。好きな男の子がいてさあ……。もう、はずかしい!(エノキの首をしめる)もっともまだパソコンなんて一般的じゃなかったから、Eメールなんてなかったけど。時代が変わると気持ちのやり取りの形も変わるのね。
エノキ  へえ。シメジさんの、時代はどうやっていたんですか?
シメジ  そうね、電話かな?手紙を書いたこともあったなあ。交換日記なんてのも流行っていたわ。いやん、はずかしい!(エノキをつきとばす)
のびろ  (奥より松山コゴミのプラカードを持って登場)ああ、忙しい。(エノキとマイタケに気付き)なんだい君たちは、まだそんなことをやっているのかい。口があるんだから、ちゃんと言葉を使ってしゃべろうよ。
エノキ  おじさんとは世代が違うんだからほっといてくれよ。
のびろ  世代なんか関係ないものだってあるんだ。未来の日本は君たちが作っていかなきゃいけないんだ。ちょっと立って。(エノキを立たせる)エノキ君、マイタケちゃんが好きなんだろ。
エノキ  違うよそんなんじゃないよ。
のびろ  いいよ、言わなくて。でも、伝えたいことがあるからこうやってEメールでやり取りしてるんだろ。
エノキ  そりゃそうだけど……。でも、なかなか伝えられないんだ。
のびろ  わかるよ。僕もそうだった。自分の思いがうまく言えなくて、何度ふられたことか……。でも、一番伝えたいことだけは、自分の口で、自分の言葉で伝えた方がいいと思うよ。声っていうのはすごいんだぞ!人の心を動かすことができる。
エノキ  文字だって同じだよ。だって本読んで感動する時あるじゃん。
のびろ  そりゃそうだけど……。最近の中学生は屁理屈ばかり……。声には即効性があるの!
エノキ  で、どうやって伝えるんだい?
のびろ  世話のやける中学生だな。いいかい、見てろよ。(シメジを立たせる)
マイタケ  あーあ、ばかばかしい。勝手にやってれば。(そっぽを向く)
エノキ  ほんと、ばかばかしい……。
のびろ  話しを聞け。(シメジを見て)ああ、まぶしい!何だろうこの光は?あれは東、するとあなたはさしずめ太陽だ。美しい太陽、さあ、昇れ!昇ってこの嫉妬深い月を殺しておくれ!あなたの美しさ故に、月はもう、悲しみに病み、青ざめているのです。
シメジ  ああ、熱がでそう……。
のびろ  恋はどんなことでもするのです。たとえ誰かがこの前に立ちはだかろうと、それが何のじゃまになりましょう。前から君のことが……、好きでした。(エノキに)こういう具合にやってみろ!気持ちを伝えるんだ、思っていることを。
エノキ  なんか、今日のおじさんの言っていること、妙に説得力があるな……。ようし、わかったよ。僕も勇気を出して、思っていることを、声に出して伝えてみるよ!
のびろ  そうだ。それでこそ男だ!
マイタケ  そんな、私、恥ずかしい!
シメジ  ちょっと待ってて!みんな呼んでくるから!(呼びにいく)お姉ちゃーん、たいへーん!エノキちゃんが告白するって!
のびろ  見世物じゃないんだから!
舞台  全員ぞろぞろやってくる。
エノキ  (立ち上がってマイタケの前に行く)マイタケちゃん……。あの、その……、話しがあるんだけど……。
マイタケ  なあに?(立ち上がる)
エノキ  あのさ、言おう、言おうと思ってたんだけど、はじめて会った時から思っていたんだけど、君の、君の……、そのお……、
のびろ  言うぞ、言うぞ……。
エノキ  君の頭のひまわり、変だと思うんだ。
全員  いやん、恥ずかしいん!
のびろ  って、ちょっと違うんじゃないか?
エノキ  ああ、言っちゃた、言っちゃった……。どうしよう……。おじさん、伝えたよ!
のびろ  偉かったなあ……。
マイタケ  そんな!ひどいじゃない!(泣き出す)
ゼンマイ  あああ、泣かせちゃった……。いけないんだ。
マツタケ  世の中には伝えちゃいけないこともあるのに。
シメジ  マイタケちゃん、元気だして!もう、のびろさん!マイタケちゃん、マイタケも言っていいのよ!このおじさんにね、思っていることぶつけちゃいなさい!
のびろ  な、なんだい、みんなして……。僕はただ……、
マイタケ  (スクッと立ち上がり、のびろの前に進む)前から言おうと思ってたんだけどさ、あんた、背低いんじゃない!
シメジ  そうよ!よく言えたわね!偉い、偉い!
のびろ  そんな、人の気にしてることを言わなくたって……。(泣く)
コゴミ  そんなことより、のびろさん、選挙活動にいきましょう。
のびろ  そうだったね。こんなことしている場合じゃない。
コゴミ・のびろ  (玄関に行く)
マツタケ  のびろさん、頑張ってね!
のびろ  ありがとう、マツタケさん。
シメジ  いってらしゃい!
コゴミ・のびろ  (玄関を出る〜遊説開始)


シーン16

舞台  上手より、名知須とモグラ登場。中央でコゴミとのびろと鉢合わせ。
名知須  これはこれは森山のびろさん、よく会いますなあ。今日は子守りかな。
のびろ  そちらこそ税金を使って、今度はどちらのお店へ?
モグラ  一丁目の角にね、いい姉ちゃんがいるところを見つけてね……、
名知須  (モグラをひっぱたく〜のびろに)貴様!また痛いめに合いたいか!
のびろ  ケンカはよしましょう。決着は投票日に……。
名知須  生意気な!貴様ら人間党が、我ら自由ファシスト党にかなうはずがないではないか!
コゴミ  行きましょう。次元が違いすぎます。
モグラ  なんだと、小僧!
のびろ  名知須さん、一言だけ言っておきましょう。僕は負けない!!
名知須  言ってろ、バーカ!こんな奴らを相手にしていても仕方ない。行くぞ!
モグラ  は、はい!
名知須・モグラ  (アッカンベーをして下手にはける)
のびろ  ああいった人権感覚ゼロの人間が政治を動かしているんだ。冷たい世の中になるわけだ。―――。ベルリンの壁に象徴されるように、ソ連や東ドイツが崩壊し、共産主義は既に遠い過去のものとなった。北朝鮮を見ても分かるように、共産主義の結末はファシズムと何ら変わらない。かといって、日本やアメリカのような自由主義社会も行き詰まりをみせている……。これからの世の中でキーワードになるのは、“人間”だよ。それには、国民一人ひとりが、政治に対してものを言わなければならない。さっきのエノキ君やマイタケちゃんのように、勇気を出して自分の意志を伝えなきゃ……。
コゴミ  そうですね……。
のびろ  それにしても思い出しちゃうなあ……。僕も昔、好きな人がいてねえ……。
白旗  (遊説をしながら登場)こちらは白旗ふり奈でございます……。
のびろ  なかなか思いが伝えられなくて。ある日、やっとの思いで言ったんだ。(ちょうど近くにきた白旗の手を取る)君が好きだ!……って、(白旗に気付く)あれ?
白旗  そんなあ、急にそんなこと言われても……、ふり奈、困っちゃう、困っちゃう!じゃあ、式は来月にしましょう!
のびろ  うわあ!た、助けて!(逃げる)
白旗  待ってえ、ダーリン!(追いかける)
マツタケ  どうしたの?騒がしいわね。(外に出る)
全員  「なになに?」「どうしたの?」と言いながら、外に出る。そのうちみんなで追いかけっこが始まる。
白旗  のびろさーん!私、もうあなたに尽くすー!
のびろ  助けてー!
全員  大騒ぎ。
舞台  緞帳下りる。