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ライオンの山
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ライオンの山
  脚本:はしいろ☆まんぢう


(登場人物)
  バルシュ・・・・村のリーダー。誠実。
  ローザ・・・・・バルシュの双子の娘のひとり。男まさり。
  ソニア・・・・・バルシュのもう一人の娘。やさしい。
  ケベック・・・・バルシュの仲間。行動的。
  ばあや・・・・・バルシュの母。ローザとソニアの祖母。
  レイフ・・・・・北方人の長。バルシュの宿敵。
  その他


――場面1――

(舞台)  バルシュの家。壁には、歴代の勇敢な英士の肖像画が飾られている。中央に、椅子に座った老婆がひとり。
ばあや   (着物の縫い物の手を休めて)おや・・・?山が笑った・・・。いま、あの「双子のライオンの山」が笑ったね・・・。気のせいか・・・。雄大な太平洋を望むこの村に、成人して、また大人の仲間入りをする娘が二人。今度の祝いの儀式には、大勢の客を招いて、盛大に祝ってあげなきゃいけないね。なんてったて、その二人の娘というのは、私のかわいい双子の孫だからね。あの「双子のライオンの山」も、きっと自分のことのように喜んで、さっき、笑ったのさ。それにしても、風習とはいえ、自分の家のこととなると、こんなに愉快で、緊張するものかね・・・。よし。(着物をかざす)ローザ!ソニア!
ローザ・ソニア  (二人、登場)なあに、ばあや。よんだ?
ばあや   どうしたんじゃ、その格好。
ローザ   (どろだらけ)へへへ・・・。
ソニア   お姉ちゃんね、沼地にはまった子猫を助けたのよ。
ばあや   おや、まあ。
ソニア   ばあや、なあにそれ。(ばあやの手から着物を取って自分の肩にあてがう)素敵!
ばあや   おまえたちの成人の儀式に着る着物じゃ。
ソニア   うれしい!いつの間につくったの?私、ぜんぜん知らなかった。
ばあや   こっちはローザの分じゃ。ほれ。
ローザ   あああ・・・。めんどくさいな。どうして女の子だけそんなお祝いをしなくちゃいけないの・・・?私、男の子に生まれればよかったな。そうすればさ、動きやすい服装で、あの「ライオンの山」にも登れるのに。
ソニア   男の子に生まれなくても、お姉ちゃん、いつも男の子みたいじゃない。
ローザ   なによ!(ソニアを追い回す)
ばあや   双子でもこうも違うものかね・・・。


――場面2――

ケベック  (負傷して登場)うううっ・・・。バルシュさんはいますか。うっ。
ローザ   ケベック、どうしたの!(ケベックをささえる)
ばあや   ソニア、は、早くバルシュを・・・。
ソニア   は、はい。お父様!お父様!(慌てて出ていく)
ばあや   クジラの肝薬、クジラの肝薬・・・。(ソニアの後を追うようにはける)
バルシュ  (登場)どうした、ケベック!
ケベック  バルシュさん、たいへんだ。北方の奴等が、ライオンの山に陣をひきはじめた。
バルシュ  なんだって・・・!
ケベック  おれが山で狩りをしていると、木を切り倒す音と人の話し声がしたんだ。この山に足を踏み入れるのは我々ぐらいしかいないのに、おかしいなと思って音のする方へいってみたんだ。すると、高台を切り広げて櫓を建てていやがる。
バルシュ  あそこからだと、私たちの村の動きが一目瞭然だな・・・。
ケベック  慌ててバルシュさんに伝えようと思って走り出したんだが、奴等にみつかって・・・。
バルシュ そうか・・・、わかった。それより、はやく傷のてあてを。奥でばあやがクジラの肝薬の準備をしている。(ケベックをささえてはけていく)
(みおくるローザとソニア)


――場面3――

ソニア  ケベック、大丈夫かしら。
(ローザ、ばあやが座っていた椅子にこしかけ、頭をかかえる)
ソニア  お姉ちゃん、どうしたの?
ローザ  うん、ちょっとね・・・。
ソニア  お姉ちゃんらしくない。(さきほどの着物を取り上げて、くるっと一回り)楽しみだな成人の儀式・・・。
ローザ  ソニア・・・。
ソニア  なあに?
ローザ  なんで男の人って戦争ばかりするんだろう・・・。
ソニア  あら、おかしいわ。お姉ちゃん、さっき男の子に生まれたいって言ったばかりなのに。
ローザ  でも、戦争はきらい・・・。悲しむ人が大勢でるもの・・・。
ソニア  お父様が背中に大きな傷を受けて帰って来た時も、とても悲しかった・・・。
ローザ  私たちが生まれた時には、すでに、北方の人たちと戦争をしていたわ。戦争のない世の中って、どんなだろう・・・。
ソニア  そうね・・・、けがをする人がなくなるわ。
ローザ  包帯もクジラの肝薬もいらない。
ソニア  それに、武器の手入れや、汚れた軍服を洗わなくてもいいわ。
ローザ  毎日の水汲みが半分になる。
ソニア  家に大勢の人が集まって来て、作戦会議もなくなるわ。
ローザ  そのかわりにパーティができる。
ソニア  食事のしたくも楽しくなるわ。お父様が長い間、家を留守にする事もなくなる。
ローザ  いろんなところに連れてってもらえる。
ソニア  それに、お母様が寂しがらずにすむ。うわあ、考えただけでも楽しいわ。
(二人、笑う〜ため息)
ローザ  なんで、戦争なんかするんだろう・・・。
ソニア  うん・・・。


――場面4――

バルシュ (いきり足で再び登場)こうしちゃおれない。こちらも一刻も早く戦陣を整えて応戦の準備をしなければ。ローザ、ソニア、すまんが仲間達のところへ行って、大至急招集をかけてくれ。
ソニア  私たちの成人の儀式の準備は?
バルシュ ああ、そうだったね。そちらの方も必ずやる。だがね、わかっておくれ、北方のレイフ一族がライオンの山に陣をはりはじめたんだ。こちらの出方が一つ遅れれば、とんでもない惨事になりかねない。事は急を要しているんだ。
ソニア  なんのため・・・?いったい、なんのための戦争なの?
バルシュ ごめんね、時間がないんだ。またあとで、ゆっくり説明しようじゃないか。今は私の言うことを聞いてくれないか。
ソニア  お父様・・・。
バルシュ これは戦争なんだ。戦わなければ、こちらが食われる・・・。
ローザ  お父様!
バルシュ ローザ、そんなに恐い顔で私を見ないでおくれ。
ローザ  ひとつ、お願いがあります。
バルシュ なんだね。
ローザ  私たちもいつの日か母となって、お父様のような力強い指導者となる子供を生む時が来ます。どうかその日のために、北方の人たちも、私たちのお祝いの儀式に招いていただけませんでしょうか。
バルシュ な、なにを言いだすんだ・・・。
ソニア  それは名案だわ!
バルシュ ば、ばかな・・・。いつ襲ってくるかもしれない敵を、祝いの席に招こうというのか・・・!
ローザ  お父様、おねがい!
ソニア  お父様!
バルシュ もうよい。(奥に戻っていく)
ローザ  お父様・・・。
(暗転〜ローザ、ソニアはける)


――場面5――

(バルシュ、ケベック、作戦会議)
ケベック だから、南から攻め入れば、奴等の動きを封じ込めることができる。
バルシュ (気のない様子で)なるほど、北には崖しかない。逃げ場を失うわけか。
ケベック 問題は我が兵力で、どこまで攻め込めるか・・・。応援を頼みましょう。
バルシュ そ、そうだな・・・。
ケベック どうかしたんですか、バルシュさん。さっきから様子がへんですね。作戦会議も上の空といった感じじゃないですか。
バルシュ う、うん・・・。
ケベック バルシュさん、困りますよ。リーダーらしい決断をしていただかないと、我が軍は空転します。
バルシュ 実は、娘達に言われたんだ。なんのための戦争かって。
ケベック この戦争には我が民族の誇りがかかっている!
バルシュ こうも言われたね。私たちもいつの日か母となって、私のような指導者となる子供を生む時がくる、とね・・・。
ケベック そういえば今度、バルシュさんの家は成人の儀式ですね。
バルシュ まだまだ子供と思っていたが・・・。私が戦いのことしか考えないでいるうちに、いつのまにか娘たちは、母となる日のことを考えるまでに成長していたかと思うとね。
ケベック しかし、戦いに弱気は禁物です!
バルシュ 弱気ではない!娘達の案に賭けてみようかと思っておる。
ケベック 案・・・、と、いいますと・・・?
(ローザとソニア、食事とコーヒーを持って登場)
ローザ  あら、気のせいかしら。いつもの雰囲気と少しちがう。
ソニア  はい、コーヒー。
バルシュ おや?どうした、その匂いは。
ソニア  いま入れたばかりなの。
バルシュ コーヒーではない。ソニアとローザからしている匂いだ。懐かしい。
ソニア  あら、やだ。毎日しているわよ。ライオンの山に咲いているお花からつくった香水よ。
ローザ  お母様も、若い頃していたんですって。
バルシュ なんてことだ。戦争にかまけて、私は娘の成長すら気付かずに来てしまったというのか。
ケベック バルシュさん!
バルシュ ようし決断する!お前たちが望む平和の恵みを、いつの日か生まれてくる子供たちに贈るがよい!
ローザ・ソニア お父様!
バルシュ ケベック、私の使いとして、大至急北方の長、レイフのところに行ってくれ。要件は、今度の娘の成人の祝いの儀式に招待する、とな。
ケベック な、なんと!
バルシュ 書簡をいま書く。(奥の書斎にはける)
(ローザ、ソニアも続いてはける)


――場面6――

(北方人の長、レイフの陣〜レイフの前でひざまずいているケベック)
レイフ  あっはっはっはっはっはっ・・・。二十年以上も戦争を続けてきて、掌をかえしたように、今度の娘の成人の祝いの儀式にご招待すると?これを信用する方がおかしいではないか。
ケベック バルシュさんのご意志は、その書簡に綴られている通りです。私から申し上げたいことは、バルシュさんは、けして嘘いつわりを申す方ではなく、今の地位も権威権力によって築かれたものではなく、私どもが慕って、いつのまにか築かれていた地位でございます。(レイフをみつめる)
レイフ  ふん。小気味よい目じゃ。よし、わかった。帰ってバルシュに伝えよ。この招待、受け申す。ただし、信じたわけではない。こちらも、それなりの武装準備をしてまいる。少しでも火薬の匂いや、刃物の音を立ててみよ。この陣より我が軍の兵力全てをもって村を壊滅する。このレイフの命にかえて・・・。
ケベック はっ!
レイフ  さがれ!
(去るケベック〜暗転)


――場面7――

(儀式当日。花や料理で飾られたバルシュの家。女達は大忙し〜中央にローザとソニアが座っている。〜その脇にバルシュもいる)
ばあや  (大きな皿に乗った料理を持って登場)ほうれ、料理ができたぞ。
ソニア  ああ、ばあや、あぶない!(ばあやの料理をささえる)
ばあや  いいんじゃ、いいんじゃ。今日はおまえたちは主賓じゃ。主賓は真ん中で落ち着いているものじゃ。
ソニア  なんか・・・、つまんないな・・・。
ローザ  ソニア、落ち着いて、落ち着いて。
ソニア  わかってる!
(ケベック登場)
ケベック こんにちは!
ローザ  あら、いらっしゃい!(立って、でむかえる)
ソニア  お姉ちゃん、主賓は落ち着いて、落ち着いて。
ローザ  わかってる!
ケベック 今日はお招きいただいて光栄です。あとから仲間達も来ます。(料理を見る)うわあ!すごいごちそう!
バルシュ 今日は娘達の一生に一度の祝いの席だ。思う存分もてなしさせていただくよ。
ケベック すいません。
ばあや  さっ、遠慮はいらんよ。好きなところに座っておくれ。
バルシュ 北方のレイフたちも、もうじき来るだろうからな。
ケベック 本当に、だいじょうぶだろうか・・・。なにごとも起こらなければいいが・・・。
レイフ 部下 (声だけ)レイフ様、到着!
(レイフ、登場)
レイフ  やあやあ、ご機嫌よろしゅう!
ケベック レイフ!
レイフ  今日はバルシュ殿の娘さん方の成人の祝いの席にご招待いただき、身にあまる光栄と思っておる。どんなたくらみか知らんが、わしの後ろには五千の兵が控えておる。下手な手出しは無用だからな。
バルシュ 今日はご足労いただきありがとうございます。こちらが私の双子の娘、ローザとソニアでございます。
ローザ  はじめまして、ローザです。
ソニア  ソニアです。どうぞ、よろしく。
レイフ  おうおう、かわいい娘達だ。今日は、祝いの席と聞いて、お二人にぴったりのプレゼントを持ってきた。これだ。(おそろいの子供用の小さな洋服を広げてみせる)おそろいのおべべじゃ。似合うぞ、きっと。わっはっはっはっ。
ケベック (たちあがり)そんな小さなもの、どうやって着るのだ。今日は成人の儀式だぞ!愚弄する気か!
レイフ  おや、このレイフ様にさからうか・・・?わっはっはっはっはっ・・・!
(飛び出すケベックをおさえるバルシュ)
ローザ  (すかさず)まあ、かわいい!(たちあがり、レイフから洋服をもらう)ありがとうございます。なんて素敵な洋服かしら。私たちに子供が生まれたらきっとお伝えしますわ。このお洋服は北方のレイフ様からいただいたものだと。
ソニア  (たちあがり)きっと子供たちも誇りに思うでしょう。ありがとうございます。
バルシュ (あっけにとられたあと)あっはっはっはっ・・・。素晴らしいプレゼントをいただいたところで、乾杯といきましょう。さっ、レイフ殿にも杯を。
(全員に酒がつがれる)
バルシュ かんぱい!
全員   乾杯!
ばあや  さあさあ、たくさんめしあがっておくれ!雄大な太平洋からいただいた愛の恵みじゃ。北方では召し上がれないものもたくさんあるだろう。さあ、レイフさんも、どんどんめしあがれ!(レイフたちに料理をふるまう)
レイフ  あ、ああ、す、すまんな・・・。
(しばらく、団欒)
バルシュ (少し酔いながら)レイフ、これをみろ!(背中の傷をみせる)十二年前、お前からもらった私の一番大事な宝物だ!あっはっはっはっ!
レイフ  (酔っている)なにをぬかす!(腹を見せる〜大きな傷がある)その時、おれが頼んでもないのに貴様がつけてくれた、わしの戦士の勲章じゃ!がっはっはっはっ。
バルシュ これをみろ!(右腕をまくる〜小さな傷)五年前、おまえがかみついた時の歯形だ。
レイフ  ばかぬかせ!(足をみせる)貴様の歯形じゃ!
バルシュ まあ、飲め。(酒をつぐ)
レイフ  お、おう、すまぬ。(返杯)
バルシュ・レイフ わっはっはっはっはっ・・・!(肩をくむ)
ローザ・ソニア (平和の歌をうたいはじめる)

♪双子の山は歌ってる
 喜びの歌を歌ってる
 小鳥はさえずり
 お花達はかおる
 ツイン・レオズ
 ツイン・レオズ
 私たちの故郷――♪

♪ライオンの山は笑ってる
 何も言わないで笑ってる
 木々はさざめき
 小川はせせらぐ
 ツイン・レオズ
 ツイン・レオズ
 私たちの故郷――♪

♪双子の姉妹は踊ってる
 みんなと手を組み踊ってる
 月は微笑み
 太陽は輝く
 ツイン・レオズ
 ツイン・レオズ
 私たちの故郷――♪

(歌はだんだん大きくなっていき、最後は全員で口ずさんでいく)
ばあや  (立ち上がり部屋を出て行こうとする〜誰もきづかない)大勢でワイワイやっているところは、年寄りにはこたえるわい。それにしてもあの子達は、まるであの双子のライオンの山のようじゃ。いつまでもわし達の平和を見守ってくれるのじゃろ。平和を愛する女の心は強いの。それじゃ、わしゃ、一足先にお暇するかい。(退場)
(いつまでも続く祝いの儀式〜照明フェードアウト)




《備品一覧》
大道具・・・椅子(6)・机(1)・双子のライオンの山
小道具・・・英士の肖像画三枚・着物(2)・軽食(サンドイッチ)・コーヒーカップ(2)・コーヒーポット(1)・お盆(2)・書簡・花・料理(御馳走)・大きな皿(1)・子供用のおそろいの服(2)・杯(6)・徳利(2)・フォーク(6)・スプーン(6)・皿(6)
衣裳・・・バルシュ用・剣・羽の冠
ローザ用・バンダナ等
ソニア用
ケベック用・剣・ヘッドバンド等
ばあや用・ベンダナ・エプロン
レイフ用・黒マント・かぶり物